俺と揺れるスカートのワルツ16
「美味い!なんて美味いんだ!」
「大袈裟だな」
「でも、ほんとにおいしいね」
主に幽霊と悠葵ちゃんと風子がキャッキャとはしゃぎながら五人で肉を焼き、焼けた側からコンロを囲んで立ったまま肉を口に運ぶ。最初の一切れで幽霊が大袈裟に感動し、それを見て俺の隣で風子も顔を綻ばせた。霊体のため物を食べれない悠葵ちゃんは、それでも楽しそうにニコニコして俺達の様子を眺めていた。
「もっと焼こう!」
「そんな焦らなくてもたくさんあるって」
「もっと焼こうもっと焼こう!」
幽霊の一言に悠葵ちゃんも続いて、俺の声はかき消された。風子が手にしていた紙皿を置いて、代わりに肉の入った容器を取り上げる。
「まだ焼いてないからこっちも焼こうよ」
「いいな!それは何の肉なんだ?」
「えーっと、塩味の豚肉かな?」
風子は容器に巻かれていたラップを剥がしながら答え、悠葵ちゃんはその手元を覗き込んだ。
「おいしそうだね!風子ちゃん」
「うん、いっぱい焼いていっぱい食べよう」
「風子ちゃんわたしの分までいっぱい食べてね!」
「ありがとう、いっぱい食べる!」
「あ、でも食べ過ぎは厳禁だよ。風子ちゃん出会った頃より顔が丸くなった気がするもん」
「う、うん、気をつける……」
風子は頬を赤くして俯いた。幽霊がすかさず「風子は全然太ってないぞ!かわいいぞ!」とフォローしたが、余計に恥ずかしさを増すだけだった。
「ほら、これもう焼けてるぞ」
俺は流れを変えるために、焼き上がった肉を幽霊の皿にねじ込んだ。
「野菜も食え」
立て続けに玉ねぎとピーマンも追加する。幽霊の皿にこんもりと食べ物の山が築かれた。
「おお、ありがとうな和輝。お母さんみたいだ」
「なんだそりゃ」
せっかく菜箸を持ったので他の者の皿を見回す。よすがの皿がほとんど空になっていた。
「よすが、もっと食えるか?」
「ありがとうございます」
差し出された皿に適当に肉や野菜を乗せる。確かに、子供達に飯をよそう母親の気持ちがした。
「和輝君は泳がないの?」
「俺はいいよ。泳ぐのそんな得意じゃないし」
ずっと荷物番をしていた俺を気遣ってか、風子がそう聞いてきた。俺は隣の彼女に視線を動かして答える。
「せっかく来たのにもったいないよ。そうだ、じゃあ食べ終わったら貝殻拾いに行こう?」
「貝殻?」
「うん、キレイな貝殻がいっぱい落ちてるんだよ」
風子はそう言うと、パーカーのポケットから何やら取り出した。彼女の手のひらの上に乗っていたのは、鮮やかな黄色い貝殻だった。
「へぇ、まぁずっとここに居るのも確かにもったいないよな。貝殻拾いするか」
「うん、しようよ。海岸沿いにいっぱいあるんだよ」
そう言われて海の方に目を向けると、銀河みたいにキラキラと輝く水面と空と海を分ける水平線があった。俺がいる所とはまるで別の世界のようで、少しくらいなら海に入ってもいいかなと思った。
「お前らはどうする?」
幽霊とよすがに尋ねると、俺達の会話を聞いていた二人はそのまま会話に混ざった。
「オレは残るよ。よすがが一人になるし」
「すみません、気を遣っていただいて」
「オレもちょうど一休みしたいところだったからな!」
幽霊は右手でピースサインを作るとニカッと笑った。その気遣いによすがも表情を和らげる。
「じゃあ悠葵ちゃんは俺達とその辺散歩するか」
「うん、あっちの方に蟹とかいそうだから見に行きたい」
「そんなところがあるのか」
「岩場があったよ。絶対蟹いると思う」
蟹が生息しているかはさておき、岩場に登るのも気分がいいだろう。悠葵ちゃんは浮けるからいいが、運動音痴そうな風子には危ないだろうか?
「楽しみだね」
風子はそう言って微笑んだ。




