俺と揺れるスカートのワルツ13
「ただいまー」
悠葵ちゃんの声に振り返ると、着替えを済ませた二人を引き連れて先頭に立つその姿があった。俺は片手を上げて返事をし、幽霊は大きく手を振った。
「二人ともお待たせ」
悠葵ちゃんの後ろを着いてきていた風子は、三人で選んだ水着の上にパーカーを羽織り、長い髪をポニーテールにて纏めている。
風子の後から一歩遅れてやって来たよすがは、何だかんだ言いながら結局購入した水着の上にゆったりとしたサイズのTシャツを着ている。二人はビーチサンダルを脱いでレジャーシートの上に荷物を置いた。
「和輝もよすがも、そんないっぱい着てて泳ぐ気あるのか?海だぞ?」
よすがと同様に、水着の上にTシャツを着ている俺を見て幽霊がそう言った。
「焼けたら痛いから」
「日焼けすると赤くなるので……」
俺とよすがの返答が重なったが、言っていることは同じだった。子供の頃、親に海や琵琶湖に連れて行ってもらうたびに、皮膚が真っ赤になり皮が剥けたりヒリヒリ痛んだりした。不健康そうな肌の色とその返答から察するに、どうやらよすがも同じらしい。
「お前は思う存分はしゃげよ」
「文太郎君も日焼け止め塗った方がいいよ。わたしの貸そうか?」
風子が親切にも、自分のバッグから取り出した日焼け止めを幽霊に差し出す。幽霊はついそれを受け取って、思い出したように「風子の後でいいぞ」とそのまま突き返した。
「私はよすがちゃんに塗ってもらったから」
「私達は着替えた後塗りましたので」
二人の返事を聞き、幽霊はありがたく腕や腹に日焼け止めを塗り始めた。その間に女子三人に声をかける。
「悠葵ちゃんは泳ぐだろ?風子も泳ぐか?」
「うん、わたしも海入りたい。和輝君は泳がないの?」
「俺はいいわ。荷物番も必要だろ。よすがはどうする?」
「私も遠慮しておきます。水泳はそんなに得意ではないので」
「じゃあ俺とよすがでバーベキューの準備しとくか」
「えっ、わたしも手伝うよ」
「いいよ、それよりあの幽霊の世話してやってくれ」
「じゃあお片付けはわたしにさせてね」
「ああ、ありがとな」
「風子ー!塗り終わった!これありがとう!」
黙々と日焼け止めを塗っていた幽霊が会話に割り込んできて、風子に日焼け止めを返した。
「文太郎君、ちゃんと背中も塗った?」
「あ!背中塗ってない!」
「ふふ、やっぱり。お腹と色が変わっちゃうよ」
風子が「わたしが塗ってあげるよ」と言うと、幽霊は「ありがとな!」と言って素直に背中を差し出した。幽霊の脚を見た悠葵ちゃんが「塗り方雑〜」とからかうと、幽霊は慌てて片脚を上げて雑に塗った日焼け止めを塗り伸ばす。ふらふらする上半身に風子が「動かないで〜っ」と慌て、悠葵ちゃんが呆れ気味に「座ったらいいじゃん」と短いため息をついた。
その様子をぼーっと見ていたら、ふいに視線を感じ横を向くとよすががジッとこちらを見ていた。
「何だよ」
「いえ別に」
少し考えてよすがの視線の意味を何となく推察し、何となく気分が悪くなる。いやだからそういうのじゃないって。
「よし!行ってくる!」
「行ってくる!」
「行ってくる〜」
準備万端、幽霊が宣言し、悠葵ちゃんが便乗し、浮き輪を持った風子もそれに続いた。俺は三人にひらひら片手を振る。
「おー、行ってこい」
「お気をつけて」
俺とよすがに見送られ、幽霊を先頭に三人は駆け出して行った。
「ふぅ」
特に意味もなく短い息を吐くと、耳ざとくそれを聞きつけたよすががすかさず声をかけてきた。
「よかったんですか。行かなくて」
「お前こそよかったのかよ」
「覚えが悪い人ですね。私のは違うと言ったじゃないですか」
「そっちこそ何度違うって言えばわかるんだ。お節介ババアみたいなこと言いやがって」
「人の親切を何だと思ってるんですか」
「そのセリフがもうお節介ババアなんだよ」
「こんな糞餓鬼に気を遣った私が馬鹿でしたね」
「よかったじゃねぇかこれからは神様のことだけ考えれるな」
「減らず口を。今後認めたって手伝ってあげませんからね」
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」
俺とよすがはそっぽを向くと、お互い唐突にバーベキューの準備を始めた。




