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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と揺れるスカートのワルツ10




夕飯を食べ終わって自室に戻ると、上半身裸で部屋の中央に仁王立ちする幽霊と目があった。思わず片手に持った茶碗を取り落としそうになる。

「どうだ!これ!」

目の前の男が露出狂みたいな言い方をしたが、訂正しよう。幽霊は今日手に入れたばかりの水着を身に着けてご満悦だ。

「ああ、まぁいいんじゃねぇの」

「だよな!すげー気に入ったぞこれ!」

「よかったよかった」

俺は肉じゃがが入った皿を机の上に置く。幽霊はニコニコしながら鏡の中の自身の姿を見ていた。

「まぁお前が言い出したことだもんな、海」

「みんなで行けてよかった。よすがも着いてきてくれるし」

「あんまり積極的じゃなさそうだけど」

「そんなことないぞ!よすがだって楽しみにしてる」

「そうかね」

「冷めるから早く食え」と続けようとして、しかしそれは幽霊の言葉に阻まれた。

「よすがだって、オレ達の他にこっちに知り合いいないんだ。バイトも慣れてきて、心に余裕が出てきて、きっとそろそろ寂しくなる」

俺はポカンと口を開けて、思わず「お前、意外とちゃんと考えてるんだな」と言ってしまった。

「失礼だぞ和輝!しかもよすがは、オレの為にこっちに残ってくれてる」

「そうだな……」

やにわに「飯食う!」と言って着替え出した幽霊を横目に、よすがはこういう所を好きになったのかなとか考えたりした。

ガツガツと肉じゃがを食っている幽霊に、俺は手持ち無沙汰に話しかけた。

「明々後日よすがと買い物行くけど、あいつ海とか入らなさそうだし何買えばいいんだろうな。日傘?」

幽霊はピタッと箸を止めると、モシャモシャ咀嚼してゴクンと大きな動作で飲み込んだ。

「確かに!よすがって泳いでるイメージないな。でも運動神経いいから泳げると思う!」

「お前ら上で出かけたりしなかったのか?上にもあるだろ、海くらい」

「海はあるけど、よすがと行くことはなかったな。仕事仲間だし。ご飯食べに行ったりは良くあったけど」

「ふーん。あいつ今回は泳ぐかなぁ」

「どうだろ。まぁ当日会って聞けばいいんじゃねーか?」

「そりゃそうか」

幽霊は再び箸を動かしたが、会話を続ける意思があるようで、そのスピードは先程と比べればかなりスローペースだった。

「悠葵ちゃんは実体化できないから海を体感できないのは残念だな」

「そうだなー。気分だけでも楽しんでくれたらいいけど」

「実体化できないと服とか変えられないのか?」

「基本霊体になった時の姿のままだな。脱ぐ事はできるけど」

「あの服って死んだ時の服装だったりすんの?悠葵ちゃんはワンピース着てるけど」

「死んだ時の服か、自分が一番印象に残ってるかのどっちかだな。だからスーツ着てる魂とかけっこうよく見るぞ。毎日着てたんだろうな」

ならなるべく恥ずかしくない服を着て死にたいなとぼんやり考えた。

「それって水泳選手とかは水着だったりすんのかな」

「そういうやつもいるんだってさ。まぁ、服なんて門を通る時にみんな着替えるから、たいして気にしなくてもいいんだけどな」

「そうなのか。その服って後で返して貰えんの?」

「貰えないけど、どうしてだ?」

「いや、すげーいい服だったら手放すのもったいなくね?逆に何で返して貰えねーの?」

「う〜ん、それは……新しい自分になる為かな」

「第二の人生ってことか」

「まぁ、そういうことだ」

幽霊は茶碗の底に残っていた飯を掻き込むと、傍らのペットボトルを開けてお茶をグビグビ飲んだ。

「ごちそうさまでした!」

バチンと手を合わせた幽霊から空になった茶碗を回収する。幽霊は「満腹満腹」と言いながら幸せそうに腹を撫でた。

「来週楽しみだな!」

「何度言うんだよそれ」

「和輝だって楽しみだろ?」

ニカッと歯を見せて笑った幽霊に、俺は「そうかもな」と返した。




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