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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と揺れるスカートのワルツ3




用事を終えた春川歴史の里文化センターを出て、ちょうど十二時過ぎ。降り注ぐ日差しはいよいよ夏のそれだった。

「暑っちぃ……」

「暑いねー」

太陽は眩しくギラギラと攻撃的で、俺達を日陰へと追いやった。影の上を選んで歩きながら、隣の風子はハンカチで首筋の汗を拭った。Tシャツで出てきた俺は大丈夫だが、風子の衣装はさすがに暑いだろう。

「どっかで昼飯食うか?」

「うん、そうしよう。和輝君はお腹減ってる?」

「そこそこ」

生活リズムが整っているわけではない俺は朝食を抜くことがしばしばあった。現に今日も食べてきていない。

「何食べようか。この辺で美味しそうなお店があればいいんだけど」

「調べる。お前なんか食べたいもんある?」

「何でも大丈夫だよ。和輝君は何が食べたい?」

「俺もなんでも大丈夫」

そう言っている間にスマホでこの辺の飲食店を検索する。昼時なので空いてそうな店がいい。さっさと下へ下へスクロールしていたが、風子が画面を覗いているのを見てスピードを緩める。

「このカフェとか良さそうだな。駅からは遠いけど、ここからなら近い」

「うん、美味しそう」

「道一本入ったところにあってわかりにくいけど、まぁその方が空いてるだろ」

俺達は地図アプリに従って歩き出した。この間五人で行ったところと似たようなカフェだ。スタッフが一人でやってそうな感じ。SNS映えしそうなキラキラした小洒落たカフェは百パーセント混んでるだろうし、風子の服装も目立つだろう。

カフェは先程の場所から徒歩五分の場所にあったので、すぐに到着した。シンプルな外観で、ドアの横にオススメメニューが書かれた黒板が立っている。大きなガラス窓には黄色い字で【カフェ レモングラス】と店名が書かれていた。ランチの時間で混み合っていたが、それでも最後の一テーブルに収まることができた。

「和輝君、何食べる?」

「んー、何にするかな。お前は?」

「どうしようかな……。パスタ美味しそう。あ、でもオムレツも美味しそう……」

料理名と価格、写真だけが載っているような簡素なメニューをパラパラと捲り、俺は日替わりランチに決めた。コロッケ、エビフライ、唐揚げなどがプレートの上にひしめいていて、普通に美味しそうだし腹も満たされそうだ。俺はこういうのはけっこうさっさと決めれるタイプだが、風子はまだ悩んでいる。

「う〜ん……この和風明太パスタにする」

何度もページを行き来したっぷり五分程悩んでから、風子はようやく注文を決めた。俺は暇つぶしに操作していたスマホをテーブルに置くと、カウンターの内側で作業をしているスタッフを呼んだ。

混んでいるので多少待ったが、しばらくすると俺達の前に料理が運ばれてきた。俺も風子も箸を手に取って食事を開始する。

「わたしね、パスタをフォークでくるくる巻いて食べるのが苦手で」

「箸で食えるんだしいいんじゃね」

「そうだよね。お兄ちゃんもお箸で食べてるし……。でも、オシャレなレストランに行ったらフォークで食べなきゃいけないかなぁ?」

「行く予定あるのか?」

「ないけど……」

「なら予定ができたら練習しろよ」

「そっかぁ」

このカフェは長居してお喋りを楽しむタイプの人達に人気があるのかもしれない。俺達の周りのテーブルではどこもかしこも雑談に花が咲き、ざわざわと賑わっている。

「和輝君はオシャレなレストラン行ったことある?」

「ねぇよ。うちは庶民派だからな。でも、大人になってもあんまり行きたいとは思わねぇなぁ」

「どうして?」

「何か面倒臭そうじゃん。これくらいの店で十分だよ、食事なんて」

「そっか、そうだよね」

食事は風子が話しかけ俺が答えるスタイルで進んだ。先に俺が食べ終わり、適当に喋りながら風子が食べ終わるのを待った。食が細そうなイメージを受けるが、この量を完食できるのだからそういうわけではないようだ。ともすればよすがの方が少食かもしれない。

「ごちそうさまでした」

空になった皿を前に風子が手を合わせる。栗生にはこういう作法は備わっていなさそうだが、風子の行儀の良さは誰譲りなのだろうか?

「美味かったか?それ」

「うん、美味しかったよ。和輝君、デザートは食べる?」

「いや、俺は大丈夫。……お前は食べるのか?」

「和輝君が食べないならわたしも食べないよ」

「食いたいものがあるなら食えば」

「えっ、ど、どうしようかな……」

風子はそう口にしながらも、テーブルの端に片付けてあったメニューに手を伸ばした。

「さっき見てた時に、このワッフルが美味しそうだと思ってて……」

「え、これ食うのか」

風子の人差し指の先には、三枚のワッフルの上に生クリームがたっぷり、いちごがたっぷり、バニラアイスとチョコソースがトッピングされたこの店のデザートの王様みたいな写真が鎮座していた。

「お、美味しそうじゃないかな?それならこっちのもいいかなと思ったんだけど……」

「いや、というよりも、パスタ食った後にそれ入るのか?けっこう量あるぞ」

俺の心配を意にも介さず、風子はニパッと笑うとこう答えた。

「大丈夫だよ!わたしまだまだ全然食べれるよっ」

俺はけっこう満腹なんだけどな……と思いつつ、王様を注文する為に近くのスタッフに声をかけた。





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