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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と揺れるスカートのワルツ2




「お、お待たせっ。ごめんね、遅れちゃって」

「ん、大丈夫」

俺は立ち読みしていたマンガ雑誌を棚に戻すと、風子の方を振り返った。待ち合わせの時間に少し遅れそうと連絡が来たので、暑い野外から逃げる為にコンビニに入ったのだ。風子を見ると、今日も巫女のような和服をきっちりと着込んでいる。暑くないのだろうか。

「お前一年中それ着てるの?」

「そんなことないよ。もっと夏になるとさすがに暑いから、お休みの日は普通のお洋服を着てるよ」

「ああそうなのか。真夏でもその格好なのかと思った」

それから栗生除霊霊媒事務所の様子をふと思い出す。

「そういや、栗生は普段私服着てるもんな」

「うん。和輝君はお兄ちゃんの仕事着まだ見たことないんだっけ。お兄ちゃんもお仕事の時はこんな感じの服着てるよ」

「俺の家に結界張りに来た時も私服だったけど……」

ジーンズにTシャツというラフな格好で家に来た姿が脳裏に蘇る。ちょっと友達の家行くか、って感じの格好だったけど、あれは仕事じゃないって意味か。

俺達は冷たい飲み物を買うとコンビニを出た。

「悪いな、今日。別に断ってくれてもよかったのに」

七月十一日土曜日。本当は今日は四人で集まる予定だった。だが幽霊が急にバイトになってしまい、その直後よすがが腹痛とかなんとか非常に嘘臭い体調不良に見舞われ、結果俺だけが約束の場所にやって来た。事情は風子に連絡したが「それでも予定通り行きたい」と返事がきたので、こうして馳せ参じたわけである。まぁこいつも友達いないだろうし、こうして誰かと出掛ける機会があった方がいいだろう。

「ううん。わたしが来たいと思ったから」

「そっか、ならいいけど」

今日は泉町市の隣の春川市を巡る予定だ。現在午前十時。あまり遅い時間まで外出できない風子との予定は朝が早い。

「とりあえず電車乗ろっか」

俺達は改札をくぐり、ほとんど待たずにちょうどよくやって来た電車に乗り込んだ。一駅分だけ電車に揺られ、春川駅で降りる。土曜日のこの時間の電車は多少混んでいた。

「まずは文化センターだな。バス乗るか?近いけど」

「ううん、せっかくだから歩いていこう」

スマホの地図アプリで場所を確認するが、ここから徒歩二十分といったところだ。俺達は並んで歩き出した。性格なのか服装のせいなのか歩みの遅い風子にスピードを合わせる。俺はどちらかというとスタスタ歩いてしまうタイプだから、たまにはこうしてまったり歩くのもいいなと思った。

「そういえば、悠葵ちゃんの様子どうだ?」

悠葵ちゃんの状態は時々報告をもらっていたが、死神に姿を見られて以来外出を控えているらしい。近くの神社を根城にしているのだとか。野良猫かよ。いやまぁ、似たようなもんなのか。

「まだ外に出るのが怖いみたい。天使の人達は文太郎君がいないってわかったら他の土地に行くけど、死神の人達はお仕事があったらまたここに来るんだもんね」

風子はしょんぼりしてそう説明した。今まで悠葵ちゃんしか一緒に出掛ける相手がいなかったんだもんな。目的は木下さん探しとはいえ、これからは俺達が色々な場所に連れ出してやった方がいいのかもしれないな。

「なら今はその神社で遊んでるのか?」

「うん。お話したり、一緒に本を読んだり、この間は百人一首を持って行って坊主めくりしたり」

「坊主めくり……」

俺は幽霊やよすがと一緒にいるから忘れがちだが、霊は基本的にこの世の物に触れることができない。あいつらが物に触れるのは実体化できるからだ。つまり、悠葵ちゃんと坊主めくりは出来ても百人一首はできない。

「今日帰りにその神社寄るか」

「えっ、いいの?」

「悠葵ちゃんの様子も気になるし……それに二人でやってても楽しくないだろ、坊主めくり」

そう返すと、風子はほわほわと微笑んで「和輝君は優しいねぇ」と言った。そんなつもりはないのだが。いや、でももしかしたら、最近の俺は他人を気にかけるようになったのかもしれない。神様なんて側に置いてるから、心が磨かれたのだろうか。




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