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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と気持ちの爆発13




時刻はいつの間にやら夜中の三時。もうここまで夜更ししたら何時に寝たって変わらない。俺はベッドの縁に、幽霊とよすがは敷布団の上に座っていた。何をやっているかというと、もちろんこいつが大名に何を喋ったのか問い詰めているのだ。

「それじゃお前の言い訳を聞いてやろうじゃねぇか」

大人しく正座をしている幽霊は、申し訳なさそうに曖昧に笑いながら、居心地が悪そうにもぞもぞと居住まいを正した。

「いやー、大名が可哀相になっちゃって」

「慰める為に姿を現したってことか?」

「いやー、はははは……。……申し訳ない」

しゅんと俯く幽霊。俺はついため息をついた。江戸川盲信者のよすがは普段なら擁護しまくるところだが、今回ばかりはさすがに温度の低い視線を向けていた。

「何しゃべってたんだよ。昼休み」

「恋愛相談されてた」

「具体的には?」

「でも内容は言わないって大名と約束したから……」

「なら別にいい。聞かなくてもだいたいわかる」

大名の部屋での会話を思い出すに、本人からもうほとんど聞いたようなものだろう、たぶん。

「江戸川様はどのように姿を現したのですか?天界についてはどの程度話しました?」

「大名が一人で歩いてたから、ふわっと行ってパッと具現化して声かけた」

「何と?」

「どうした?って」

「瑞火様は江戸川様がその……オバケだとすぐに信じたのですね」

「ああ、びっくりしてたけど、通りすがりの天使だって名乗ったらすぐ納得したぞ」

「神だとは身分を明かさなかったんですよね?天界については?何か喋りました?」

「神とは言ってない。天界についても全然聞かれなかったから、天界から来たってことくらいしか言ってない。そういえばオレの名前も言ってない」

「そうですか。まぁ、それなら多少マシですね。天界的には」

「オレがすぐどうしたんだ?って聞いたから、大名の話になって、天界の話とかしてる暇はなかったんだよ」

よすがの尋問ターンが終了し、また俺の番になった。

「話の内容はこの際もういい。そもそも何で姿を現した?今までもあいつに構いすぎだとは思っていたが、そこまでする理由が何かあるのか?」

「そんな大層な理由はないけど……。大名、教室を飛び出したあと泣いちゃったんだよ。声掛けないわけにはいかないだろ」

「俺なら掛けないがお前は掛けるんだろうな。ならそういうことにして、それで?」

「可哀相だと思わないか?大名ってこんなに和輝のこと好きなのにその恋は叶わないんだぞ」

「叶わない恋なんて大名だけの特権じゃねぇぞ」

「そりゃそうだけど、和輝なら大名を幸せにしてあげれるかなって」

「大名だけ幸せになるパターンはいらない。俺は俺も幸せになりたいよ普通に。それに、それはお前が大名に入れこむ理由にはなってない」

「うーん……もともとそんな立派な理由はないんだ。ただ和輝の近くにいたからよく見えただけで。可哀相だなと思うんだよ。和輝は大名のこと好きじゃないからそう感じないのかもしれないけど、よすがはわかるだろ?」

同意を求められたよすがは表情を険しくした。いや、もともと途中から険しい顔で話を聞いていたが。

「申し訳ありません……私にはその感情は理解しかねます。ですが、それは江戸川様はご存知ないことを私が知っているだけの違いですので、江戸川様の感情を否定するものではありません」

「でもよすがはさっき大名の手助けしてただろ」

「お前が知ってることって何だ?」

幽霊と俺に同時に問いかけられたよすがは、ほんの一瞬だけ悩んで俺の質問に答えた。キリッとした釣り目でこちらを真っ直ぐ見る。

「朝波氏には教えられません」

「何でだよ」

「知らない方が幸せなこともあります。それは、江戸川様も同意なさるでしょう?」

そう言ってその眼差しを幽霊にスライドさせる。幽霊は黙って深く頷いた。

よすがは立ち上がるとスウェットのシワをパッと払って、俺を見下ろして言った。

「瑞火様のところに戻りますね。服は朝に取りに伺います」

「ああ……。おやすみ」

「おやすみなさい」

それから、幽霊の方を向いて言う。

「江戸川様。先程のは江戸川様に対する回答でもありますよ」

「えっ」

「それでは、おやすみなさいませ」

よすがはサッと背中を向けると、壁を突き抜けて出ていった。幽霊を見ると、顎に手を当てて何やら考え込んでいる。先程よすがが残していった言葉の意味を理解しようとしているのだろう。

「あいつたまにああいう意味深なことするよな」

「よすがはきっと言わない方がいいと思ったから言わなかっただけだよ」

そう返した幽霊は、まだ先程までと同じ体勢で考え込んでいた。俺はよすがが出ていった方向を見上げたが、無機質な壁紙があるだけだった。




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