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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と気持ちの爆発8



水祈の家に上がるのは約十年ぶりだ。小学校の一、二年生頃まではお互いの家を行き来して遊んでいた。まぁもれなく大名もセットだったのだが。

「お邪魔しまーす!」

幽霊が大きな声を出して玄関へ入る。幽体だから大名には聞こえてないんだけどな、と思った矢先に実体化した。最後に足を踏み入れたよすがも、玄関のドアが閉まるなり頭の輪を消した。

最初に家に入った大名が先導して階段を上がる。だがおそらく俺は教えられなくても場所を覚えてる。当時恋心さえなかったがガキンチョの頃何度もやって来た家だ。間取りもなんとなく記憶してるし、この玄関だって懐かしい。

玄関に備え付けられている靴箱の上で写真立てが倒れているのが目についた。こういう細やかな部分に気がつくのは水祈と千歳さんのイメージが強かったが、やはり大名と父親の二人だけでは倒れた写真立ても放置されてしまうのだろう。それを直そうと手を伸ばしたところで、すぐ後ろのよすがにせっつかれた。

「早く進んでもらえます?」

「はいはい悪かったな」

俺は写真立てを直すことは諦めて、幽霊の背中を追って階段を登った。

大名の部屋は二階の突き当りだ。階段を上がってすぐが水祈の部屋。もう一つドアがあるが、そこは確か寝室か何かで、子供の頃も入らないように言われていた。

四人が入りきると、大名の部屋はかなり狭かった。俺と幽霊はベッドの縁に腰掛け、よすがはカーペットが敷かれた床に正座をした。大名は壁に立てかけてあった小さな丸テーブルを持ってくると、折りたたみ式になっている脚を立てて部屋の真ん中に置いた。そのまま座りはせずにドアの方へ向かう。

「何か飲み物を取ってくる」

「おおー、ありがとな〜!」

「すみません」

幽霊がニカッと笑い、よすがは小さく頭を下げた。大名が出ていって、俺は明け透けに部屋を見回す。

「何もねーな」

「漫画がいっぱいあるぞ」

「少女漫画ばっかりだな」

俺は「大名の個性を表すようなものが何もないな」という意味で言ったが、幽霊の言う通り物はごちゃごちゃとたくさんある。本棚の漫画や今までに使用していた教科書や参考書、ベッドの端に集められたぬいぐるみ、壁に掛けてある薄手の羽織り物。

少女漫画なんてわからないと思っていたが、よく見てみればドラマ化や映画化した作品ばかりだ。背表紙を見てみると「内容は知らないがタイトルは聞いたことある」というものが多い。ぬいぐるみには統一性がなく、しかもけっこうくたびれている。おそらく子供の頃に誕生日プレゼントで貰ったり旅行先の土産コーナーで買ったものばかりなのだろう。ハンガーに引っかかっているのは、無難な形のネイビーのロングカーディガンだ。そういえば今年はロング丈の羽織が流行っているらしい。ちょうどあんな感じの。

俺が大名の部屋の分析を行っていると、隣の幽霊がやにわに手を伸ばし、机の引き出しの取っ手に指をかけた。その瞬間、よすがの声が飛んでくる。

「いけません!」

けっこう大きな声だったので、俺も幽霊も肩をビクリと跳ねさせた。俺達は揃ってよすがの方を向く。よすがは気を取り直すように小さく咳払いをした。

「いけませんよ、人の引き出しを勝手に覗いたりしては」

「すまん」

「いえ、私も大きな声を出してすみません」

幽霊とよすがが熟年夫婦みたいなノリの会話をしている隣で、俺は件の引き出しをそっと横目で眺めた。よすががそんなに慌てて制止するから、急に引き出しの中身が気になってきた。おそらくよすがは中に何が入っているか知っているのだろう。それを幽霊ないし俺に見られたくなくて、キャラでもないのにあんなに焦って大きな声を出したのだ。

引き出しの中には何が入っているのだろう。大名のことなんて微塵も興味はないが、よすがの反応が気になる。仮に俺達に見られたくないもとだとしたら、それは何だ?もしもそれが水祈に関係するものだったとしたら……。例えば、多少考えすぎかもしれないけど、水祈が俺に向けて認めた手紙とか……いや、さすがに考えすぎで気持ち悪いか。

その時、階段を上がってくる足音が耳に入って、俺は思考を打ち切った。




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