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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と気持ちの爆発6




「よすが」

「和輝……」

幽霊はよすがを、大名は俺の名前を口にした。大名は驚いた顔をすぐにぶすっとした表情に作り変えた。一方幽霊は、俺の顔を見てバツが悪そうに頭をかく。

「たまたまそこで会ったので。瑞火様は江戸川様と仲がよかったのですね。知りませんでした」

誰も何も言おうとしないので、よすがが口を開いた。前半は幽霊に、後半は大名に向けた言葉だ。こいつ、肝っ玉座ってんな。

「別に。初対面よ。今ここで知り合ったの」

「そうだったのですか。彼は私の仕事仲間です」

「前言ってた神殿の仕事?ってことはこいつよすがの部下なの?」

それにはよすがは答えなかった。どうやら幽霊は自分が神だとは言わなかったらしい。まぁ初対面でそんなこと言われてもたいていは信じないが。

「瑞火様が私の仕事仲間と話しているのを見て驚きましたよ。どうやら新手のナンパだったようですね」

「えっ!違う違う!」

「冗談ですよ」

両手の平をぶんぶん振って慌てて否定する幽霊に、よすがはピシャリと言った。そんな二人を尻目に、大名がまだ何も言えないでいる俺に言葉をぶつける。

「やっぱり視えてるじゃない」

「……視えてても言うわけないだろ」

「こいつ、朝波が飼ってるの?」

大名は隣に座る幽霊に人差し指を向ける。

「まぁそうなるんだろうな」

「へぇ。よすがが私の家にいることも知ってたんだ」

「それを提案したのはこいつだ」

俺も幽霊に人差し指を突き付けた。幽霊は何か悪い流れを感じたのか、身体をキュッと小さくした。

「何よ、あんた朝波のこともよすがのことも知らない風だったじゃない」

「だって和輝が怒るだろうから……」

「ただの最低だわ。相談して損した。最悪」

「いやでも大名の話もしないから!大名に和輝の話はしないけど和輝にもさっき聞いた内容言わないつもりだから!」

「普通に信用できないんだけど」

大名はそれだけ言って立ち上がると、スカートをパンパンと払った。隣の幽霊もそれに倣って立ち上がる。

「何で言ってくれなかったの?幽霊視えること。私別に誰かにバラしたりしないのに」

大名は少しだけ俺を睨んで言った。幽霊は間に入りたそうにしていたが、よすがが黙って俺の答えを待っていたので結局何も言わなかった。

「お前含めて誰にも言ってねぇよ。……水祈以外は」

「別に言ってくれてもよかったのに」

「言わねぇよ誰にも。お前は普通じゃないことの居心地の悪さがわかるか?」

「…………」

「お前ら全員に視えないものが視えるんだよ。俺はおかしいんだ。お前らからしたら」

「……そうね。悪かったわ。考えなしだった」

俺の言っている意味を大名がすんなり理解したので、正直面食らった。視界の端でよすがが何か聞きたそうに幽霊を見て、幽霊はそんな視線に気付かず何やら満足気に大きく頷いていた。

「でも私頼ってほしかったのよ。……幼馴染みだから」

二度あることは三度あるを体現するべきだろうか。もはや聞きたくなくなった「幼馴染み」というワードにアレルギー反応が出そうだ。

だが結局、二度あることは三度あるを俺は理解しているので、仕方がなくいつもと違う答えを選択した。

「それは無理だと思う。俺お前のこと何か嫌いだから」

幽霊がハッとして両手で口を覆った。喋らなくてもうるさい奴だ。静かに成り行きを見守っているよすがを見習ったらいいのに。

「あなたが私のことが嫌いなのは、私が水祈を嫌いだからでしょう?」

「さぁ。きっとそうなんだろうな」

「それはあなたがまだ水祈を好きだからよ。あなたの記憶から水祈が消えれば、きっと私のことなんてどうでもよくなる。違う?」

そう言い切った大名の表情はほとんど能面のようだった。俺を見つめる瞳のレモンに似た色が今はとても憎らしく感じた。




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