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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と気持ちの爆発4




「ったく、あいつどこ行ったんだよ」

俺は上がった息を落ち着ける為に膝に両手をついた。結局そのまましゃがみ込む。視聴覚室を飛び出してから校舎中を走り回ったのだ。ヘトヘトである。

ゼェゼェ呼吸をする俺の耳に、昼休み終了のチャイムが届いた。さっき作っていた冊子はこの後すぐに使う予定だが、古之河と瀬川は大丈夫だろうか。

「っし、」

だいぶ呼吸が落ち着いた俺は、とりあえず立ち上がった。この場所は体育館へ行くのに通るから、ずっとここにいるとクラスメイトや他クラスの顔見知りと鉢合わせてしまう。俺は少し悩んで下足室へ向かった。

幽霊を追って視聴覚室を飛び出した俺がまず向かったのは屋上だった。幽霊は大名を追っているのだから、つまり大名が行きそうなところを探せばいい。前に大名が逃げ込んだ先は屋上だ。そう推察して屋上へ行ってみたがもぬけの殻だった。なかなか的を射た推理だと思ったのだが、はずれたようだ。

俺は上履きをローファーに履き替え、ぶらりと外に出た。あてはないが、校舎内は探し尽くしたのだから外へ出るしかない。それに校舎内をうろつくと教師に注意されて体育館へ連行される可能性もある。

とりあえず校舎を一周して、それでも見つからなかったら家に帰ろうと決めた。

大名はよすがのことを言っていたのだろう。俺がまだ普通か普通じゃないか自分で判断できなかった頃、幽霊が視えると親や幼稚園での友達に話していた。そんな親でも否定したことを信じてくれたのは今まで水祈だけだったが、大名はよすがに出会って幽霊の存在を認識したのだ。だから急にあんなことを言ってきたのだろう。

「面倒臭くなったな……」

俺はため息をつきつつ歩みを進める。今後、大名がよすがの話をしてきても面倒だ。子供の頃の俺の発言を考えると、大名がおばけの話を振るなら俺しかいないだろう。親友と呼べるような特別仲がいい友人もいないようだし、冷えきった関係の父親にはまさか話すまい。

「えっ……」

大名の言動について考察をしつつ、校舎に沿って歩いていたら、角を曲がったところで大名を見つけた。その光景に俺は絶句する。校舎裏の陰って湿り気のある地面に腰を下ろす大名の隣に、幽霊の野郎が座っているのだ。しかも、二人は会話をしている。

俺は咄嗟に身を隠した。冷静に状況を理解して、怒りが沸々とわいてくる。もちろん幽霊に対してだ。

校舎の角から覗いて息を止めてみるが、遠すぎて二人の会話は聞こえない。しかし校舎裏は狭く、身を隠すようなものもないので、この角から出たら一発で二人に見つかるだろう。

「仕方ない」

少々時間はかかるが、俺は作戦を考えた。校舎裏はほとんどが完全に壁だが、トイレの窓だけはついている。一度校舎内に戻って一階のトイレへ行き、二人の頭上にある窓から話を盗み聞きするのだ。そうと決まればさっそく移動だ。俺はくりると振り返った。

「うわっ……!」

思わず声を上げ、反射で両手を口に当てる。大きな声を出したのは「う」の部分だけだったが、奥の二人に気付かれてしまっただろうか?

「なんで声掛けねーんだよ!」

「掛けようと思ったらあなたが振り返ったんですよ」

俺の真後ろにいたよすがは悪びれもなくそう返す。しかも、なんなら「何故自分が文句言われなくちゃならないんだ」程度には思ってそうだ。

「それより、どうかしたのですか?」

「あれ、見てみろ。見たらわかる」

俺は幽霊達の方を指差した。よすがは角から顔を覗かせると、一秒程のハイパースピードで覗くのをやめた。瞬時に状況を把握したのだろう。

「江戸川様、瑞火様に姿を見せたのですね」

「みたいだな。勝手なことしやがって」

「直前の状況がわからないのですが……何があったのです?」

俺は長く長く息を吐き出してから、視聴覚室での一部始終を説明した。話が進むほどによすがの眉間にシワが寄る。

「その流れで、江戸川様は何を話しに行かれたのでしょうか」

「知らん。そうだ、お前ちょっと行って話聞いてこいよ。霊体のままなら大名には視えないだろ」

「あまり盗み聞きのようなことはしたくありませんが……まぁ今更ですしね」

よすがはそう言うと、ふっと壁の中に消えた。どうやら二人の背中側から回り込むつもりらしい。俺はよすがの帰りを辛抱強く待った。




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