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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と気持ちの爆発3




「へ〜!朝波と大名さんって中学同じだったんだ!」

「家が近所だから」

「ってことは小学校から一緒なの?」

「ええ、むしろ幼稚園から同じだった」

「じゃあ幼馴染みってやつだね。なんかいいな〜!」

全然いいとも思ってなさそうなことにテンション高く羨望の声を上げる古之河に、大名は本気でいいと思ってそうな微笑みを返した。あまり混ざりたくない会話だが、古之河の一言でいとも簡単に召喚される。

「じゃあ朝波って子供の頃大名さんと遊んだりしてたの?」

大名が何か答える前に俺は素早く返事をした。

「いや、家が近いだけでそんなに関わりなかったから」

それに対して大名がすかさず反駁を加える。

「あら、子供の頃一緒に公園で遊んだりしたじゃない」

雲行きが怪しい。これは冨永に聞かれた時と同じ展開になるのではないか?

「いつの話してんだよ。そもそも俺は水祈と遊んでたわけであって、お前と遊んだ記憶はない」

「私には三人で遊んでた記憶があるけど?」

「ならそりゃお前の妄想だな。俺はお前と遊んだ記憶も喋った記憶もない」

「じゃあ水祈が私に喋ってたのは何なの?朝波の中ではどういう記憶になってるの?」

俺と大名の仲が良くないことに、さすがに古之河も気が付いた。「どうしよう」という言葉を顔に貼り付けて、俺と大名を交互に見る。瀬川まで顔を上げてこちらを気にし出した。

「さあね。蝶々とでも喋ってたんじゃねぇの」

「意味わかんない!変なもの見えてるのはそっちでしょ!?」

「は?どういう意味だよ」

今にも立ち上がりそうな勢いで声を荒らげる大名に、俺も目を釣り上げて応酬する。

「幽霊が視えるんでしょ!?子供の頃からそう言ってたじゃない!」

大名は手にしていた紙をテーブルに叩き付けて叫んだ。逆に俺は強く握り込んでクシャクシャにしてしまう。何故か瀬川が興味深そうに目の色を変えた。

「はぁ!?ありもしないこと捏造すんじゃねぇぞ。お前の妄想押し付けんじゃねぇ」

「私だって信じてなかったもの!」

大名はついに立ち上がった。その勢いで、視聴覚室の背もたれのない丸イスが音を立てて倒れる。

「でもほんとにいるじゃない!私知ってるんだから!」

「いねぇよ。頭沸いてんだろお前」

「いるわよ!今更誤魔化さないでよ!」

「現実見ろよ」

「和輝の馬鹿!大嫌い!」

大名はそれだけ吐き捨てると、駆け出した。古之河が何て声をかけたらよいかわからず「あっ……」と言ったその間に、ドアを乱暴に開けて教室を飛び出してゆく。本当に「あっという間」だった。

大名が飛び出した直後、幽霊がその後を追って出て行った。開け放たれたままのドアを気にせず、壁を突き抜けて大名を追う。

「待て!」

俺は思わず半分立ち上がり、身をひねって背後のドアを振り返った。古之河と瀬川からしたら大名を呼び止めたように見えただろう。

大名の足音も幽霊の背中も、瞬きの間に五感の外へ消えた。古之河と瀬川が俺を見上げていて、俺は居心地が悪い中とりあえずイスに座り直した。右手の中でクシャクシャになったプリントを、しばらくじっと見つめる。

二人も何て声をかけたらよいのかわからないのだろう。一分ほどの無言の間に俺は決断をし、手の中のプリントをテーブルに置いた。と同時に立ち上げる。

「悪い、俺も行くわ」

「あ、う、うん」

古之河が辛うじて反応を返し。俺はそれを背中で聞きながら視聴覚室を飛び出した。




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