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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と現実の悪夢11




「ごちそうさまでした」

よすがは律儀に手の平を合わせ、唐揚げのゴミをコンビニの袋に入れた。そういえば幽霊も意外に食べ方がきれいだったりするが、よすがが指導したりしてたのだろうか。

「お前普段どんなもん食ってるんだ?」

「和食が多いですが、洋食や中華も食べますよ」

「外に食いに行ってるのか?」

「そんな贅沢はしません。自分で作っています。大名家の台所は使いたい放題ですから」

「え!お前料理できんのか」

「何を驚いているのです。料理くらいしますよ。上でも一人で生活していたわけですし」

「いや何か、意外に女の子らしいところもあったんだなぁと思って」

「あなたの三倍生きてるんですよ。人生経験が違います」

「まぁそうか。……まぁそうなのか?」

そういうことじゃない気もするが。

「足は大丈夫なのか?」

そう尋ねると、よすがは左足をスッと浮かせて、またそっと地面に下ろした。

「おそらく靭帯を痛めたのでしょうが、問題はありません。浮けるので」

「霊体でも怪我ってするんだな」

「ええ、まぁ。同じ霊子でも、自分の身体を構成している霊子はいじれないんですよ。できる者も中にはいますが、殺人が可能な才能なので基本的に禁忌扱いですね。悪霊のように外的要因で自身の霊子が変わる場合もありますが、あれはほとんど自分の意思が反映されないので」

よすがはそこまで説明して、フッと短く息を吐いた。

「まだへこんでるか?」

「もともとへこんでなどいません」

「あいつも心配してたぞ」

「江戸川様はお優しいから……」

口をつぐんで待ってみたが、よすがから言葉が続くことはなかったので、俺は再び口を開いた。

「そんな落ち込むことねぇだろ。お前がいなかったらみんな死んでたよ」

「そんなことありませんよ。結局何もできませんでした」

「いや結果を見てみろよ。お前が戦ってくれなかったらどうなってた?」

「江戸川様の期待に添うことができませんでした。私を頼ってくださったのに」

よすがはそう言って、今度は大きなため息をついた。

「完璧主義すぎじゃね?それ」

「完璧に仕事を熟す部下だと思われたいです」

「じゃあ今日はどうなってたらお前にとっての完璧だった?」

よすがの顔を見ると、少し目を大きく明けて驚いたような表情をこちらに向けていた。驚いたというより、不意をつかれたといった感じか。

「それはもちろん、あの悪霊を私が倒して、皆無事でいることが……」

「みんな無事じゃねーか。お前が戦ってくれたからだろ。何度も言うけど」

「……実際悪霊を清めたのはあの死神ですし、私は江戸川様のお役に立てなかった」

「あいつがそう言ったのか?」

俺の言葉によすがはハッとして、つい俯いた。それから、頭を小さく左右に振る。

「心配してたぞ」

「……はい」

「そもそもあいつは、お前が仕事出来ようが出来なかろうが、きっとお前にがっかりしたり貶したりしねーよ。お前が頑張ってるのちゃんとわかってると思うし、そんなあいつを慕ってるんだろ」

「……そうですね。あなたなんかの言葉で気付かされるなんて、どうかしていました」

「一言もふた言も余計なんだよ」

俺は最後に一口残っていたコーヒーを飲み干すと、ベンチから立ち上がった。

「帰るか。弁当持って帰らなきゃならねーしな」

俺の言葉によすがは「江戸川様がお腹を空かせてるでしょうからね」と返した。俺が出口へ歩き出すと、よすがもそれに着いてくる。俺達は連れ立って水祈の家まで歩いた。




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