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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と現実の悪夢8




「こんな長時間人の妹を連れ回して、お前どういうつもりだ?」

「すんません……」

栗生のお小言に俺は素直に謝罪の言葉を口にした。栗生の言葉に反省したからとかでは全然なく、もともと夕方頃には風子を家に帰す予定だったのにすっかり夜になってしまったからだ。そして、俺が早いうちに風子を家に帰していれば彼女は化物の攻撃に見舞われず、死神から嫌な話も聞かずに済んだと、自分の判断を後悔しているからである。

「二人で出掛けてたのか?」

「いや、幽霊とよすがも一緒だ。俺が風子を送るって言ったらあいつらさっさと帰ったけど」

栗生除霊霊媒事務所に着き、建物の前で「もう大丈夫か?」「うん、迷惑かけてごめんね」という別れのやり取りをしていたら、栗生が階段を下って現れたのだ。こいつ、絶対事務所の窓か何かから俺達のこと見てたぞ。そして現れた栗生が放ったのが先程のお小言である。

「ふん、まぁいい。だがこいつをあちこち連れ回すのはやめろ。特にお前なんて霊の友達しかいないような奴は……ん?おい、そこ汚れてるじゃないか。どういうことだ?」

栗生は風子の袴に目をやりながら言った。おそらく悪霊と死闘を繰り広げた時に汚れたのだろう。土汚れがついている。

「え、あー、これは……」

「えっと、転んじゃって……」

「そう、転んで」

俺が言い淀んでいると、風子があたふたと誤魔化した。俺もつい同意したが、嘘臭さが増しただけだった気がする。栗生は疑わしげな目を俺に向けた。

「怪しいな。何か隠してるだろ」

「隠すことなんてねーよ。単に躓いて転んだんだよ。風子もそう言ってるだろ」

「だいたい何しに行ったんだよ、風子を連れて」

「いやまぁそれは」

「わ、わたしが連れて行ってって言ったんだよ。文太郎君の想い出の人を探すの、わたしも手伝いたかったの」

「そんなこと俺達がする義理はない。ふらふら出歩くから転んだりするんだ。お前は間抜けなんだから」

「ご、ごめんなさい……」

強く言われて風子は俯いた。風子にしては頑張って主張した方なのではないだろうか。

「お前はもう戻れ。夕飯がまだだ、何か作っとけ」

「はい」

風子は俺の顔を見るとちょっと困った顔をした。俺が「今日は助かった。またな」と言うと、申し訳なさそうに階段を上がっていった。さて、栗生と二人きりになる。

「またなじゃねぇよもう会うな」

「はいはいわかったよ。俺ももう帰るから」

「いや待て。聞くことがある」

俺は「やっぱり」と思いながら踵を返しかけた足を戻した。

「何だよ風子が転んだ時の話か?」

「風子の目が赤かった。お前が泣かせたのか」

なんだかんだ言ってこいつちゃんと見てるな。兄貴独裁政権かと思っていたがただのシスコンなんじゃねぇのかこれ。

「そんなことしねーよ。子供の頃の話聞いただけだよ」

「何で子供の頃の話で泣くんだよ。お前が嫌味を言ったんじゃないのか?」

「言うわけないだろそんな何の得もないこと。子供の頃から友達が全然いなくてクラスでも浮いてたって話を聞いたんだよ」

「まぁ……そうだろうな。特にあいつは要領が悪いから」

俺はため息をついた。それは栗生に聞こえたらしく、彼は露骨に不満げな顔をした。

「あとな、今でも我慢してることもあるって言ってたぞ。お前が押さえつけるからだろ」

「押さえつけているように見えるか?」

「見えるから言ってんだよ」

「たった一人の家族なんだぞ。その家族に何かあってからじゃ遅いんだよ。守るのが兄の役目だ」

「それとこれとは違うと思うぜ。風子だって友達ほしいだろ。それくらいのことは自分で選ばせてやったらどうだよ。あいつもう十七なんだぞ」

栗生は「やれやれ、何もわかっていない」とばかりにため息をついた。今度は俺が不満げな顔をする番だ。

「聞け。あいつ友達ほしいって言って泣いたんだよ。お前にも気を許せなくて、心から安心できる友達がほしいって言って泣いたんだ。お前のせいだぞ。この堅物め」

俺はそれだけ言うとさっさと踵を返した。今度は待てと言われなかったし、俺も振り返らなかった。はっきり言ってやったことに心をスッキリさせながら、駅までの道を早足に歩いた。




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