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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と現実の悪夢3




飛び出したよすがは、自分の左脇腹の辺りで右手を握った。まるで刀でも持っているような動きだと感じたのも束の間、よすがの拳の中に刀の柄が現れ、鍔が現れ、刀身が現れた。おそらく霊子で刀を作ったのだ。

「はっ!」

よすがは身を低く構えると、女性を押さえつけている腕をぶった切るように刀を横に奮った。

「ぐぅぅぅぅ」

化物は右腕をスパッと切られて、うめき声を上げる。後から駆け付けた幽霊が、寸前で素早く実体化すると伏したままの女性を抱きかかえてサッとその場を離れた。

切り落とされた化物の右腕が、モコモコと細胞分裂するように再生していた。よすがはそれを尻目に、化物の首を目掛けて地を蹴った。

化物は左腕を大きく振るってよすがを叩き落とそうとする。化物の右側から突撃したよすがは、空中でステップを踏み身を回転させて切り返すと、その更に右側へ回り込んだ。右腕が再生中である化物はよすがの動きに対応できない。

仕留めた!と思った矢先、化物が身体を覆っていたモヤのようなものをよすがに向けて吹き付けた。いや、よすがにだけではない。三百六十度全方向、まるで水浴びをした犬がブルリと身体を振るったように黒いモヤが飛ぶ。よすがはそれを正面から食らって吹っ飛ばされると、俺の足元まで転がってきた。幽霊は女性を守るように地面で丸くなっている。大丈夫なのか?あいつ。今生身なのでは?

「チッ」

「よすが、大丈夫か!?」

「心配いりません。朝波氏は風子殿と悠葵殿を頼みます」

よすがは転がった勢いをそのままに起き上がると、再び化物に向かっていった。

「か、和輝君、あれ……!」

震える風子の視線の先に、肥大化した化物の姿があった。

「な、なんじゃありゃ……!」

化物は石鹸が泡立つようにムクムクと大きくなり、最初より四、五倍も膨らんだ。かなりでかい。立ち上がると二階建ての建物と同じくらいだ。

「勝てるのかよ、あれ……」

風子は祈るように両手を握った。

「お兄ちゃんがいてくれれば……」

よすがが切りかかり、化物がその相手をしているうちに、幽霊は女性を連れて脱出した。どうやら無事だったらしい。女性と犬を逃がすと、幽霊は化物に向き直った。

化物の顔付近で戦っていたよすがが、大きく振るわれた腕にはたき落とされる……と、その寸前で身をひねって躱した。が、反対側の腕から繰り出された平手打ちは避けきれず、真横に吹っ飛んでいった。

「よすが!」

「よすがちゃん!」

俺と風子は思わず悲鳴のように彼女の名を叫んだ。化物の足元で、幽霊が弓矢を作り出していた。鏃の切っ先を高く向け、思い切り弦を引いている。おそらく化物の目を狙っているのだろう。俺は頭の片隅でそう分析しながら、しかし足はすでによすがの元へ駆け出していた。

「和輝君!」

「隠れてろ!」

振り向く余裕もなくそう叫ぶ。化物のくぐもった、しかし大きな悲鳴が聞こえた。幽霊が矢を当てたのだろう。手足を闇雲にばたつかせて暴れ回る化物を横目に、俺は全速力で走った。




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