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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と真夜中の最低2



「で、なんなんだ、そいつは。お前はよほど俺の機嫌を損ねたいらしいな」

「こいつの部下だと。味方だよ」

「お前にとってはな」

吐き捨てるように言う栗生に、俺はため息で返事をする。隣に立っているよすがは、物理的にも気持ち的にも栗生を見下ろして言った。

「こいつこそなんなんです。客人に対して無礼が過ぎませんか?」

「栗生は幽霊嫌いなんだよ」

「幽霊嫌い?三下が贅沢なことを言うものですね」

よすがが鼻を鳴らす。栗生はもともと釣り上がっている目元を更に鋭くした。

「なんだと?ずいぶん舐めてくれるじゃねぇか」

「正当な評価だと思いますが?事実あなたに何ができます?」

「まずはお前から除霊してやろうか」

「いいのですか?痛い目をみるのはあなたですよ」

「まぁまぁまぁまぁ」

俺の隣に座っていた幽霊は、おっとりとそう言ってよすがを見上げた。居心地が悪そうにテーブルの一点を見つめていた風子は、ホッとしたように顔を上げた。

「頼むよよすが、恭也は友達なんだ。仲良くしてほしい」

「ですが江戸川様、こいつ……」

「悪いやつじゃないんだ」

幽霊が「な?」と賛同を求めると、よすがは渋々うなずいた。幽霊に言われたらこいつは抗えない。

「恭也も悪かったな。喧嘩売りに来たわけじゃないんだ」

「そうかよ。除霊事務所に幽霊がいるってだけで俺は胸糞悪くなるけどな」

「すまん。よすがのことをちゃんと話しておこうと思って」

幽霊が「何かあったら報告するって約束だっただろ」と付け足す。栗生は鼻を鳴らしただけだった。幽霊が素直だから興醒めしたのだろう。

「よすががオレのやりたいことを手伝うって言ってくれててさ。それが終わったら天界に帰るつもりだ」

「つもりじゃなくて必ず帰れ」

「おう、必ず帰る。仕事もあるしな」

「アテはあるのか?人探しだろ?しかもウン十年前の」

結局幽霊はどこまで話しているのだろうか。前回ここへ来た時、二人きりで話したいからと俺と風子は追い出された。栗生はどこまで知っているのだろうか。今の所口ぶりからして、木下佳子が故人であることはわかっているようだが。

「う~ん。正直あんまり進んでなくて。よすがが頑張ってくれてるんだけど」

「そんな進捗具合じゃ応援できねぇなあ。そのうち霊ばっかりになるんじゃねぇか?」

「いや、でも、この街にはいなかったってことはわかった!大きな収穫だ!」

「そのペースでやってて何年かかるんだよ」

幽霊はわざとらしく身体を小さくした。

ここで、今まで黙って成り行きを見守っていた風子が、おそるおそる提案した。

「お兄ちゃん。だったらさ、わたし達が手伝ってあげたらいいんじゃないかな……?」

風子はそう言いながら栗生の顔を見て、栗生が風子に顔を向けるのと同時にパッと下を向いた。

「何で俺らがこいつらに手を貸さなきゃならん。人手不足でただでさえ忙しいのに」

「そ、そうだよね。ごめんなさい……」

風子は俯いたままそう謝って、そのまま黙ってしまった。風子の意見を一蹴する栗生に、やはり俺はいい気が起きなかった。

「ありがとな、風子。でもお前らも仕事大変だろうし、オレの問題だからオレ達だけで頑張るよ」

「その探してる奴は見つかる目処は立ってるのか?」

幽霊は風子に声をかけたのに、何故か返って来たのは栗生の声だった。幽霊は再び栗生に向き直る。

「いやあ、それが全然でなぁ。方法が虱潰しに探すくらいしかないから」

「非効率的な奴らだな。俺はいつまでも待てねぇぞ」

「また何か見つかったら報告するよ」

栗生はまた鼻を鳴らした。たぶん帰れという合図だろう。

幽霊が立ち上がったので、俺もそれに倣った。栗生は立ち上がりもせずに、もちろん見送りもしなかった。風子が慌てて立ち上がってドアを開けた。

「ありがとな、風子。また来る」

「邪魔したな」

幽霊と俺が風子に一言挨拶してドアを通過する。ちなみに幽霊の言葉の後、栗生から「来んでいい!」という声が飛んできた。最後によすがが無表情で会釈をして、ドアがパタンと閉まった。

階段をこちらに登ってくる男性が見える。チノパンにシャツという格好の、どこにでもいそうな休日の四十代サラリーマンって感じだ。彼は階段を降りる俺に気が付いて、すれ違いざまにペコリと頭を下げた。

背後で男性がドアをノックする音が聞こえる。今頃風子が出迎えに向かった頃だろう。俺達は立ち止まらずに階段を下り、外へ出た。

あの男性、俺の前後にいる幽霊とよすがが視えていなかった。きっとたいした相談じゃないか、ただの肩こりや疲れからくる金縛りを霊障だと思いこんだりしているのだろう。

ああいういわゆる「ニセモノ」もいちいち相手にしなくちゃいけないのか。俺は内心で心にもない「大変だな」を呟いて、さっさと駅の方へ歩き出した。





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