俺と神様の理屈4
「最初によすがに聞きたいんだけど、よすがには好きな人がいるか?」
「す、好きな人ですか」
幽霊の第一声に、よすがは戸惑ったような表情をした。それは実際に好きな人がいるからなのか、この幽霊がこんなことを言い出すとは思わなかったからなのか。
「あ、無理に答えなくてもいいぞ。ただ、自分にどうしようもなく好きな人がいるって想像してほしい」
「……はい」
幽霊の言葉に、俺は自然と水祈のことを思い浮かべた。記憶の中の水祈が振り返って俺の名前を呼んだ。
「その人にどうしても会いたくて、百年探しても見つからなくて、せめて想い出だけでも見つけたくて、今それを探している最中なんだ」
「……江戸川様には好意を寄せている方がいるのですね」
「うん」
「それは、生前に出会った方なのですね」
「……うん」
二人はそのまま黙ってしまった。俺が何か言おうかと考えていたところで、よすががこう言った。その時俺達の間を駆け抜けるように風が吹いて、俺の髪だけを揺らした。
「江戸川様は、特別なのですね」
幽霊は頭を少し下げて地面を見つめた。よすがは一人だけ立っている視点から幽霊を見下ろしている。その深い紫色の瞳は水の入ったガラス玉のようで、慈しんでいるようにも軽侮しているようにも見える。その様子はまるで天使みたいだ。空の上から人間を見ている。
「そりゃ特別だろ。神様なんだろこいつ」
幽霊が何も言わないので、今度こそ代わりに俺が口を開いた。首だけをこちらに向けたよすがは、不可解なものを見るような表情をしていた。
「頓珍漢なことを言いますね、あなたは」
「よすが、いいんだ」
幽霊の声に隣に目を向けると、幽霊は顔を上げてよすがを見ていた。
「和輝は知らない」
「はぁ……そうなのですね。何故言わないのですか?」
よすがはパチパチと瞬きをした。知らないとか言わないとか、なんの話をしているんだ?よすがの態度からは、知っていて当然というような雰囲気を感じるが。
「そりゃ言わねぇよ。和輝は人間だからさ」
また風が拭いた。そいつはやっぱり俺の髪しか揺らさなかった。
お前みたいな人間臭ぇ神様に言われたくねぇな。と思ったけれど、言葉にはしなかった。
「知っていても知らなくてもどちらでも構わないと思いますがね……。だってどうせ……」
「いいんだ。このままで」
俺は幽霊の頭でピカピカ光る輪っかを眺めながら、次の言葉を待った。
「それに、いつか知るんだからわざわざ今知らなくてもいいだろ?」
「江戸川様がそうおっしゃるなら、私は口出しいたしません」
よすがは俺達を出待ちしていた時のような、何も感じていないまっさらな表情で答えた。彼女からしたら俺の話なんて微塵も興味がないからだろう。
「それより、どうする?よすが。さっきはオレのこと手伝ってくれるって言ったけど、話聞いてみて」
幽霊は眉尻を下げてヘラっと笑った。見上げられたよすがは、逆にキッと眉を上げる。
「無論。お手伝いさせていただきます」




