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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と時を進める勇気15




人が捌けた会場で四人と合流した俺達は、普通にこっぴどく叱られた。こういうのはよすがの役かと思ったが、俺達を叱ったのは江戸川と大名であった。

江戸川には、なかなか帰ってこないから心配した、事件や事故に巻き込まれた可能性もあるし冷や冷やしたという内容をワーワー喚かれた。霊体になって探し回ってはみたが、人が多すぎて見つけられなかったらしい。とてつもなく申し訳なくなった。

大名の言葉は単純に不満であった。みんなで見ようという約束だったのに、二人でどこをほっつき歩いていたのかと。気分が悪くなったという言葉を、いつもの調子で四、五回言われた。

江戸川には割と本気で謝罪し、大名の言葉は聞き流し、悠葵ちゃんにはそっと両手を合わせた。

「本当に心配したんだぞ!」

「悪かったって。途中人混みで戻れなくなったのは本当だから」

「心配かけてごめんなさい。わたしが和輝君を誘ったのが悪いの」

風子に頭を下げられ、江戸川は今度はあたふたし始めた。

「大丈夫だぞ風子、二人とも無事だったんだから。もう気にすんな」

俺はそんな江戸川を見て肩でため息をつくと、よすがの方を振り返った。

「お前にも迷惑かけたな。結局かき氷も買ってこなかったし」

「いえ、それは別にいいのですが。本当に何もなかったのですね?……天使を見かけたとか」

「何もなかったよ。遊んでただけだ」

そう言って俺は片手の金魚をちょっと持ち上げた。

「連絡しようにも、俺大名の連絡先知らねぇしな」

「そうですか……。私と江戸川様も携帯電話があればよかったのでしょうね」

「って言っても、買ったところでどうせすぐ帰るんだろ?」

人差し指で空を指してみせると、よすがは一拍後に「そうですね」と返した。

「とりあえず帰るか。……と言いたいところだけど、今帰ったら電車すげー混んでるだろうな」

「少し時間潰してからにするか?」

「そうするか」

周囲をぐるっと見回してみる。さっさと片付け作業に入っている屋台が多かった。

「どっかでかき氷買うか?お前食いたいって言ってただろ」

「食べるー!」

「探せばまだ開いてる屋台ありそうだし」

それに、かき氷なんて氷砕いてシロップかけるだけなんだから、片付け中でも頼めば作ってくれそうだ。

俺達はまだ営業していた屋台でかき氷を買った。俺と風子は先程食べたので遠慮して、江戸川、よすが、大名の分三つだ。悠葵ちゃんは羨ましそうにみんなのかき氷を見ていた。

「これを食いに来たんだよこれを!」

「大げさだな」

メロン味のかき氷をザクザク鳴らしながら江戸川は嬉しそうにそう言った。やがて頭がキーンとなる例のあれが来たのか、ぎゅっと目を瞑った。

「あっ、よすがちゃん舌が青い!瑞火ちゃんも!」

風子の声に振り返ると、よすががちょうど舌を出したところだった。しかし自分の舌を自分で見ることはできないと気づいたのか、すぐに口の中に片付ける。その隣で大名は巾着袋から小さな手鏡を出して自分の舌の色を確かめた。

「ほんとね」

「風物詩だね」

微笑む風子には何も返さず、大名は手鏡を片付けた。風子はそれに全然気づいていないようで、尚も大名に話しかける。

「瑞火ちゃん、ブルーハワイにしたんだね。最初はいちごを買う予定だったんだよ」

風子の言葉に大名は「そう」と言っただけだった。ここでようやく相手の反応がイマイチなことに風子が気づいて、困ったように俺と江戸川に視線を向ける。

まぁ何というか、やっぱ大名って風子のこと嫌いなのかな。声水祈と一緒だしな。ふわふわしてて平和主義者なところも似てるし。

気を遣ってか、よすがが風子に声をかける。

「風子殿は何味にされたのですか?」

「わたしはレモン味にしたよ」

「それも美味しそうですね」

全くなんの身にもならない会話である。だが風子が大名の微妙な反応を忘れてにこやかにしているのだから、意味はあったのか。よすがは本当に律儀なやつである。

女性陣の会話を尻目に、江戸川は液体になったかき氷を吸いながら俺に尋ねた。

「風子とは何して遊んでたんだ?」

「特にこれといったことはしてねーけど。射的とか、輪投げとか、あとこれ」

先程よすがにしたように、俺は金魚が泳ぐ袋を少し持ち上げた。

「金魚とったのか」

「いや、俺も風子も掬えなかったけど。これはおまけで貰ったやつ」

「なるほどな。家に水槽あるかな?」

「子供の頃のが残ってればあるけど。確かにどうするかな、これ」

江戸川が「バイト先の裏にけっこうキレイな側溝あるぞ。魚も泳いでる。とりあえずその水汲んできて飼おうぜ」と言っているのを、頭のどこかで聞いていた。

子供の頃、父親と来たことがある。父親の方が子供みたいにはしゃいでいて、その日も金魚すくいをした。俺も父親もすぐにポイを破ってしまって、屋台のおっちゃんがおまけで金魚を一匹くれたのだ。それを育てるために、翌日わざわざホームセンターに水槽を買いに行った。

「でも一匹じゃ寂しいかもしれないな。オレも金魚すくいすればよかった。上手いと思うぞオレ」

水道水を日光に晒して薬品を抜くカルキ抜きというものがある。日光に当てる時間が短かったのだろうか、天候が良くなかったのだろうか。それとも、金魚の方に問題があったのか。俺と父さんが「金之助」と呼んでいたその金魚は、一週間で死んでしまった。

「長生きしろよ〜!名前もつけよう。な、和輝!」

それとも、この神様が言うとおり、寂しかったから死んでしまったのだろうか。




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