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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と彼女の関係2





「やっぱさ、焼きそばパンだよな。焼きそばとパンという素晴らしい二つの食べ物を合体させるなんて、焼きそばパンを考えた人は天才だと思うぜ」

俺はそれを聞き流しながら焼きそばパンを一つカゴに入れた。焼きそばパン一つ税込み百七十四円。さらにメロンパン百二十八円とコーンマヨネーズパン百四十九円がすでにカゴに入っている。幽霊は今飲み物の棚の前に移動したので、百四十八円のパック入りジュースを買ったとして合計五百九十九円。これ俺の財布から出てるんだぜ。馬鹿らしいだろ?

俺は更に一ヶ月分の餌代を計算しようとして、幽霊の声で我に返った。

「なぁ和輝、あれ、あれ!」

幽霊が少し背伸びをして棚の上から出入り口の方を見る。俺は背伸びなんてしなくても宙に浮けばいいのに……と思いながらそれを真似た。ちょうど自動ドアが開いたところだった。

「あいつ昨日の昼のやつだよな」

コンビニの店内に入って来たのが大名だとわかると同時に俺は顔をしかめた。わざとではない。顔の筋肉が勝手に動くんだ。

俺は棚から適当なジュースを一つ取ると、それをカゴに入れてその場を離れた。大名を避けながら会計を済ませ、さっさと店を出よう。大名はレジ前を通ってパンコーナーに来たので、俺は店の奥の通路を使ってパンの棚の裏に回り込んだ。このまま真っ直ぐ行けばレジ、というところで、驚くべきことに棚越しに大名が声をかけてきた。俺は予想していなかった事態に思わず足を止める。

「朝波、おはよう」

大名は先程の俺達と同じようにつま先で立っているのか、棚から目だけをひょっこり出していた。俺は「おう」と小さな声を捻り出す。未だに大名の隣に突っ立っている幽霊は、自分の姿が視えないのをいいことに思い切り大名の顔を覗き込んだ。

「どうしたの、コンビニなんて寄って。あんた弁当派だったでしょ」

「まぁ、たまにはな」

俺はさっさとこの場を立ち去りたくてうずうずしながら素っ気なく答えた。大名ならここで話しかけてくることはないと油断していた。いや、ついこの間までのこいつならここで俺に話しかけることなんてなかったのだ。ここ数日の行動は、いったいどんな心境の変化があったんだ?

「今日もあそこで弁当食べるの?」

もういいだろとレジに向かおうと踏み出した足を止める。無視したらいいのだろうが、何故かそれをできない俺がいる。

「どうだろうな」

「私も行ってもいい?」

俺は「好きにしろ」とだけ答えて、今度こそレジへ向かった。自分の意志で足が動くことにひどく安心した。

レシで千円札を出し、お釣りを受け取る。合計金額はいくらだったかもう覚えていない。俺は逃げるようにコンビニを出て、早足で学校への道を歩いた。

と、ここで気付く。あいつがいない。後ろを見て、前を見て、もう一度後ろを見て、更に右と左も確認する。どうやらあの幽霊をコンビニに置いて来てしまったらしい。まぁ学校の場所はわかるだろうし、わざわざ戻るまでもないか。俺は後から来る大名に追い付かれないようになるべく早く足を動かした。隣に誰もいないとしっくりこないな、とぼんやりと思った。

普段より早く学校につき、教室で幽霊を待つこと五分。前方のドアから教室に入ってきた幽霊を見て、俺はポカンと口を開けてしまった。あのモサモサ頭、大名と一緒に登校してきたのだ。

大名には幽霊の姿が視えていないので、正確には大名の後にくっついての登校だが。大名がわざわざ俺の脇を通り後ろの席に座る。俺はそれを俯いてやり過ごした。すぐにスマホを取り出しメモ機能を起動させる。

【どういうつもりだ】

目で合図を送ると、幽霊は俺の背後からスマホの画面を覗き込んだ。俺の質問に「何がだ?」と質問で返してくる。

【何であいつの後つけてきたんだって聞いてんだよ】

「何となくだ!」

真後ろにいられると幽霊の表情がわからない。たが振り向いて確認するわけにもいかない。キョロキョロしながらスマホを操作している奴なんて怪しくて仕方がない。

【もうあいつに関わるな】

「何でだよ。幼馴染みなんだろ?」

俺は少し迷ってから【違う】と打ち込んだ。幽霊が何か言う前に、前方のドアが開いて一時間目の担当科目の教師が入ってきた。いつの間にかチャイムが鳴ったのか。直後に「セーフ!」と叫びながら男子生徒が飛び込んで来て、「セーフじゃねぇよ」と教師が名簿でその頭を叩いた。クラスメイト達はかったるそうに自分の席につく。

幽霊は自分の定位置である、俺の机の左隣に移動していた。ちらりとその顔を見上げてみたが、いつも通りのアホ面がぶら下がっているだけだった。もしも教師が来なければ、俺の「違う」にこいつはなんと答えたのだろう。

教師が教科書を開き、前回の簡単な復習を始めた。律儀に教師の説明に相槌を打つ者、初っ端から机に突っ伏して寝る者、開いた教科書に手持ち無沙汰に落書きをする者、机の下でスマホをいじっている者。俺は後ろの席からそいつらを眺めながら、しかしそれを見てはいなかった。珍しく幽霊が静かにしている。俺は自分の世界に浸っていた。もう何度も思い返した彼女のことを考えていたのだ……。





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