俺と彼女の関係
俺と彼女はおそらく両想いだった。告白したわけでもないし、確認し合ったこともない。それでも、俺達には感じることができた。俺は彼女が好きだったし、彼女も俺が好きだった。
俺達は想い合っていることを他人に話したことはない。何故だかわからないが、誰にも言わないことが暗黙の約束となっていた。誰に話さずとも、俺は彼女のことが好きだったし、彼女もきっと同じだったろう。
俺達は付き合っているわけではなかった。彼氏を名乗ったり彼女にするような言動をしたことは一度もなかった。それは彼女も同じだった。俺達は両想いだということをお互いに理解していた。だが、俺達はまだただの友人だった。
俺達は、俺達の生まれ育ったこの町を離れることはなかった。それはこの町が好きだからというわけではなく、わざわざ素敵な場所に足を運ばなくたって二人でいれば幸せだったからだ。
そのため俺達は専ら近所の公園で過ごしていた。小さな公園の隅のベンチで隠れるようにして、その日の出来事を語り合った。それだけで幸せだった。それが一番幸せだった。
しばらく話すと、俺達は別々の道へ帰った。俺は公園を出て右に、彼女は左に家があった。俺は彼女の家を知っていたが家まで送ったりはしなかった。彼女も送ってほしいとは言わなかった。公園の隅のあのベンチだけが、俺達の落ち着ける場所だった。
彼女はとてもかわいらしい女性だった。陽だまりのような眼差しも、優しげに微笑む口元も魅力的だった。外側にハネた毛先は愛嬌があったし、声は小鳥のように愛らしかった。ただ、背伸びしてナナメに分けた前髪だけは彼女に似合っていなかったが。
学校が終わると俺達は、別々の道から公園に集まった。風邪で学校を休んだ日も、親の目を盗んで公園にだけは行った。帰ってからこっぴどく叱られたことを、翌日彼女に話した。俺達が毎日ここでこうしていることを、俺達以外誰も知らなかった。
俺は彼女が好きだった。だから、高校を卒業したら彼女に告白しようと思った。俺が彼女を好きだということを、言葉にして伝えたかった。彼女が俺と同じ気持ちだということを、言葉にして伝えてほしかった。言葉にすることで俺達の関係が変わってしまうことに恐怖したが、俺達の関係はこんなことでは変わらないという絶対的な自信もあった。
俺は世の中の不条理を呪った。世界を恨んだ。俺と彼女が会うことはなくなった。彼女のあの魅力的な微笑みは、いとも簡単に消えてなくなってしまったのだ。