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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と自分を好きになるための一歩16




16

翌日、登校するなり大名に声をかけられた。そうなるだろうと予測はしていたが、正直「捕まった」と思った。

「おはよう。あの子あの後どうなった?」

俺はスクールバッグを机の横に引っ掛け、イスを引き出し、座って脚を組んでから、ようやく大名の問に答えた。幽霊は俺と大名の間でふよふよ浮きながら様子を見守っている。

「無事にアパート見つけたよ」

「へぇ。あのお願いするって言ってたナントカさんがやってくれたの?」

「ああ。いい人だったぞ」

「そんなにすぐにアパートが見つかるものかしら?契約はどうなってるの?」

「知らん。なんか何でも屋って店の人だった。魔法みたいに何でもしてくれるんだよ。一瞬で住む場所見つけたり」

前の席の瀬川がゆっくりこちらを振り返った。不思議に思った俺がついそちらを向くとパチリと目が合い、彼はそのままフッと目を逸らして再び前を向いた。

「まさか本当に独り暮らしを始めるなんてね」

「こうなると思ってなかったのか?」

「飛び出したけど行くアテもなくて結局あのお兄さんの所に戻るってオチだと思ってたわ」

大名は特に何の感情も浮かんでいない顔でそう言った。風子のことを馬鹿にしているとかではなくて、たぶん本当にどうでもいいのだろう。

「そういや、お前はあの後どうしたんだよ」

「家に帰ったに決まってるじゃない。よすがはあの子の所に泊まったそうね。わざわざうちに来て報告して行ったわ」

「じゃあお前風子がどうなったか知ってたんじゃねぇか」

「ええ。でもそんなに詳しくは聞いてないわ。近くにアパートを借りたってことだけ」

「全部知ってるようなもんだろそれ」

「お二人さん、仲良く何話してんの?」

俺達の会話に割って入ってきたのは、クラスメイトの冨永だ。彼は俺と大名の間に立ってニカッと笑った。朝から元気な奴だ。幽霊と思い切り被ってるけど。

「別にたいした話じゃねーし仲良くもねぇよ」

幽霊が冨永からスルッと抜け出すのを視界の端で捉えながら答える。

「冨永君、この間も話しかけてきたけど、あなた暇なのね」

「く〜ッ!大名さんキビシー!」

「何が面白いのかわからないわ」

「冨永、あんまり関わるな。精神に良くないぞ」

大名に冷たくあしらわれた冨永だったが、しかしその場を離れようとはしない。彼は大名の言葉を意にも介していないようで、なんてことない顔で話しだした。

「なぁ、朝波昨日夜コスプレ集団と歩いてなかったか?南鳥駅の近く」

「え!……見てたのか」

「ああ、たまたまな。俺あの辺にばあちゃん家あるんだよ。今脚悪くしてるから、昨日親に連れられて身の回りの世話しに行ってたんだ」

「そうなのか……」

「朝波だけ普通の格好してるから逆に目立ってたぜ。あれ、何のキャラクターなんだ?ゲーム?」

「さぁ。あんまり詳しくは知らねぇが格式高い正装だそうだ」

何でそう答えたかというと、横で幽霊が「神殿の正装だ!仕事着だぞ!格式高い人間しか着れないんだ!」とワーワーわめいているからだ。

「ふーん。別に朝波がゲームとかアニメ詳しいわけじゃねーんだ」

「俺はあんまり知らねーな。ドラいもんくらいだ」

「なーんだ。俺けっこう好きだから仲間かと思ったのに。ラノベとかも読まない?」

「読んだことないな……」

「まじかよ〜。面白いぞフリーズローズとか。大名さんは?アニメとか見る?」

全く興味がなさそうに会話を聞いていた大名に話を振るとは、冨永はハートが強いな。

「全然。興味ない。少女漫画なら読むけど」

「少女漫画か〜。俺の守備範囲外だわ」

「そう」

「朝波は?漫画も読まないの?」

「人気のやつは読んでるけど。ツーピースとか」

「逆に二人とも普段何して過ごしてんの?」

冨永がそう尋ねた時、チャイムが鳴って担任教師が入って来た。他のクラスメイトはだらだらと自分の席に戻る。

「じゃあ」

冨永も片手を上げると俺の机を離れていった。

全員が席につき、担任が出席を取る。本日まだ登校していない者は七名。この高校の朝のホームルームはいつもこんな感じだ。

担任は今日も特に連絡事項はないことを告げると、さっさと教室を出て行った。途端に教室は騒がしくなる。

「なぁ、和輝」

幽霊はそう声をかけて、真横から俺の顔を覗き込んだ。

「あの冨永ってやつ面白そうなやつだな」

俺は横目で冨永を観察した。一時間目の教科書とノートを机の上に出して、スマホを弄っている。次の授業の用意をしているだけ真面目だろう。

「オレ友達になりたい!」

俺はため息混じりに小さく首を振った。幽霊は頬を膨らまして不満をアピールする。

「ちぇー、ケチケチ〜」

これ以上人様の前に姿を現してどうするっていうんだ。大名に姿を見せたこともあまり納得できていないというのに。バイトは仕方ないにしても、もう俺の知り合いに姿を見せるのはよしてほしい。

すぐに一時間目の授業の教師がやって来て、生徒達に授業の準備をするよう促した。生徒達がまだ授業は始まっていないと駄々をこねている間にチャイムが鳴り、皆しぶしぶ教科書を取り出した。教師はお座なりに出席を取り、さっそくチョークを握った。




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