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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と自分を好きになるための一歩5




機嫌を悪くして出て行った大名だが、昼休みを終えて教室に戻ると相変わらず俺の後ろの席で澄ました顔で座っていた。感情的に喚いたと思ったら能面みたいな顔になったり、こいつの感情の起伏どうなってるんだよマジで。さすがにホラーだわ。

まぁ一学期もあと数日で終わるし、新学期が始まればすぐ席替えがあるだろう。そう考えながら自分の席につく。幽霊は隣に立って、しかしチラチラと背後の大名の様子を伺っていた。

すぐに五時間目の歴史の教師が入ってきて、直後に授業開始のチャイムが鳴った。教師は名簿を開き、出席状況の確認を始める。

ちなみによすがは一旦水祈の家に帰った。風子の様子を見に行ったのだ。行く宛のない風子には、放課後になるまで水祈の家で待機を命じている。最後にもう一度大名に宿の礼をしたいと言って、風子もそれに応じた。今朝は学校の準備でゆっくり礼を言えなかったらしい。

教師が黒板にチョークを走らす間に、俺は机の下でそっとスマホを確認した。メッセージアプリを開くと、風子から返信が来ている。昼休みのうちに、大名に嘘がバレた顛末を報告したのだ。風子からは【ごめんなさい】という謝罪と【学校から帰ってきたら私も一緒に謝るね】という宣言が返ってきていた。

俺は返信を確認すると、教師に小言を言われる前にさっさとスマホを片付けた。代わりにシャーペンを握って板書に精を出している姿を装う。教師は問題の解答をさせるのに生徒を指名したが、幸いにも俺の名前が呼ばれることはなかった。

五時間目が始まって三十分が過ぎた頃、窓をすり抜けてそっとよすがが入ってきた。俺を見つけてから教室に入ったのだろう、よすがは真っ直ぐこちらへやって来る。そして思わず俺の後ろの席を見た。よすがは授業中の大名を見るのは初めてのはずだ。

「よすが〜。おかえり!風子の様子どうだった?」

幽霊がさっそく声をかける。教師の解説と二重唱が始まって、まるで聖徳太子になった気分だった。俺はさっさと授業を諦め、頭上で繰り広げられる会話に意識を向ける。

「やはり戸惑っておられましたね。ですが、自分が上手く誤魔化せなかったからだと責めておられました」

「風子が詫びる必要ないのに。オレ達のワガママで嘘つかせたんだから」

「おっしゃる通りです。ですが、真面目な方ですからね」

「そうだな。嘘つかせたこと後で謝ろう」

「栗生氏の説得については、自分の気持ちを正直に話すとおっしゃっていましたよ」

「よかった。風子は自分の意見を言うのが苦手みたいだから、それが一番いい。恭也に伝わるようにオレ達で手助けしないとな」

「そうですね。それでも、当初よりはだいぶ肩の力を抜いて接してくれるようにはなりましたし、兄妹間でいざこざがあるのなら、今が解決と成長の機会なのかもしれませんね」

幽霊は大きく頷いた。俺は黒板を眺めながら、手持ち無沙汰にシャーペンをくるくる回しながら二人のやり取りを聞いていたのだが、ふとよすががこちらに目を向ける。

「朝波氏、聞いてます?」

俺は視線をそちらに向けて、ちゃんと聞いていることをアピールする。

「大丈夫、むしろ和輝は授業を聞いていない」

うるさいな。その通りなんだけども。

「はぁ。それもどうかと思いますが……聞いているなら結構です。放課後、全員で栗生氏の元へ向かいますよね?」

「そうだな」

「それでは私は風子殿と悠葵殿と一緒にお待ちしています。……悠葵殿の期限も近いと思うので、心配ですから」

「じゃあ学校終わったらオレ達も大名の家に向かうよ」

「はい、お待ちしております」

よすがは幽霊に小さく頭を下げると、サッと飛び立ってしまった。もともと風子達と待機していた所を、風子伝いに俺が呼び出したのだ。風子につかせた嘘が大名にバレた時に、説明の為にいてくれた方が助かるのと、単純に大名に呼べと言われた為である。

よすがの真っ白な羽根が青空に溶け込んでいくのを横目で眺める。あまりにも晴天だ。どうりで暑い。

空は清々しい程のセルリアンブルーだ。




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