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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と自分を好きになるための一歩




水祈の家の玄関の前で立ち尽くす風子の後ろ姿を、俺と幽霊は離れたところから見ていた。よすがはついさっき大名の部屋へ入っていったところだ。先に大名と話して宿泊できないか頼んでもらう。一階のリビングの電気が点いているところを見るに、親父さんも帰ってきているらしい。急に押しかけて泊めてくれるだろうか。

しばらくして玄関のドアが開いて大名が出てきた。後ろ手にパタンと閉めたドアから、スッとよすががすり抜けてくる。大名は風子を頭のてっぺんからつま先までじっくり見ると何か言った。風子はペコペコと頭を下げている。

そのまま玄関の前で二言三言言葉を交わし、大名は玄関のドアを開けた。風子がまたペコペコ頭を下げながら、大きな荷物を持って入ってゆく。そのまま大名も家に入り、ドアはパタンと閉まった。

よすがはこちらを向いて腕で丸印を作ると、先程と同じようにフワッと浮いて大名の部屋にスッと消えた。

「……とりあえず帰るか」

「そうだな、何か上手くいったみたいだし」

幽霊も俺の言葉に同意して、俺達は荷物を抱えて帰路についた。

家に帰って部屋に荷物を置き、真っ先に風呂へ向かう。疲れているのでゆっくり湯船に浸かりたかったがそれを堪えてサッとシャワーを浴びるだけに留める。幽霊が順番待ちをしているからだ。俺は両親に気付かれないようにひっそりと部屋に戻り、今度は幽霊が風呂へ向かった。

ドライヤーで髪を乾かし終えた時、ちょうど幽霊が戻って来た。スッと床下から現れて、霊体のままタオルで髪の毛を拭いている。

「母さん、まだ起きてたか?」

「おう、居間でテレビ見てた」

「たぶん明日パート休みなんだろうな」

父親は朝が早いのでもう布団の中のようだ。母は、父がいなくなったリビングでまったりと撮り溜めたドラマでも見ているのだろう。

俺がドライヤーを差し出すと、幽霊はタオルで擦ってボサボサになった髪を乾かし始めた。

俺はベッドに腰掛けてスマホを起動させる。メッセージアプリを確認してみたが、風子からの返事はなかった。家についてすぐに【雰囲気どういう感じか教えてほしい】とメッセージを送っていたのだが、既読すらされていない。大丈夫だろうか。

ごろんと背中から倒れ込んで、メッセージアプリを画面から消す。何かあれば悠葵ちゃんが飛んでくるはずだ。ただたんに返事をする暇がないだけだろう。

「和輝」

「なんだ」

ドライヤーの音が止むと同時に幽霊が声をかけてきた。俺は仰向けでツミッターを眺めながら生返事を返した。

「心配ならオレが様子見てこようか」

「えっ」

俺は思わず上半身を起こす。幽霊はドライヤーを片づけながら、こちらに一瞥もくれずに続けた。

「オレなら大名には見えないし……。サッと行ってサッと戻ってこれるぞ」

「いや……でもなぁ」

言い淀むと、幽霊はこちらを向いて顔にクエスチョンマークを浮かべた。

「オレも心配だし」

「まぁ確かにそうか……。じゃあ頼む」

「任せろ!」

幽霊は勢い良く立ち上がると、自分の胸をバンと叩いた。バサリと羽根を広げるが、俺のお下がりのスウェット姿じゃ神様どころか天使にさえ見えない。幽霊は「行ってくる!」と言うと壁をすり抜けて出て行った。

今度はしっかりとベッドに横になった時、手の中のスマホがメッセージの受信を告げた。見ると風子からの返信だった。

【お返事遅くなっちゃってごめんなさい。瑞火ちゃんのお父さんにもご挨拶して、さっき三人で御夕飯を食べました。今、瑞火ちゃんがお風呂に入っています。次はわたしが入ってもいいと言われています。今日は瑞火ちゃんのお部屋にお布団を敷いて寝ます。悠葵ちゃんも一緒です。よすがちゃんはリビングのソファーで寝ると言っていました。わたしが場所を取ってしまって申し訳ないなと思いました。和輝君も今日は疲れただろうからゆっくり休んでね】

風子からの長文を読んで、何とか上手くいったのだと安心した。よすがの頼みといえども、大名もよく了承したものだ。いや、他人に無頓着なだけなのかもしれない。

今日は何とかなったが、明日も水祈の家に泊まるわけにはいかない。明日の放課後にでも栗生の所へ行って、奴の頑固頭を説得しなければ。

そうと決まれば俺も早く休んだ方がいい。明日も疲れる一日になりそうだ。俺は歯を磨くため洗面所へ向かった。




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