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サングラム  作者: 國崎晶
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俺とこいつの共通点2




まだ視えているかもう視えていないかと言われれば、そりゃあもちろん視えている。視えているからこそ今こうやって自称神様の幽霊に付き纏われているわけだ。迷惑しているといえばしているが、正直なところ慣れてきてしまっている俺がいる。

俺が教室に戻って来てからの話をしよう。大名は昼休みが終わる直前に教室に戻り、俺の存在には一切触れずに自分の席についた。すぐに五時間目の英語リーディングの担任がやって来て授業が始まった。大名も俺の後ろの席で教科書を広げた。

率直に言うとこの授業は楽だ。教師は三十代前半の女性だが、こいつにはやる気というものがない。授業中に居眠りしていてもスマホいじっても手紙を回しても注意しようとしないのだ。授業の後半は問題集をさせて終わりだし、その時解答欄がスカスカでも何も言われない。

昼食後ということもあり、生徒の半数近くが机に伏して居眠りをしている。一週間で幽霊もこの授業は思い切り喋ってもいいものと認識したらしく、さっそくペチャクチャと話しかけてきた。

「和輝、和輝、見てみろよあの雲鳥みたいな形してる!」

しかし俺はその言葉に何も答えなかった。何か言うような気分になれなかったのだ。俺は頬杖をついたままぼーっと教科書の一点を眺めていた。普段高確率で返事が返ってくる授業なのに、俺が無反応なので幽霊は少し戸惑ったようだ。

「和輝、どうしたんだ?眠いのか?」

幽霊は机の脇にしゃがみ、俺の顔を見上げた。俺は面倒臭そうにシャーペンを手に取り、教科書の隅に文字を書いた。

【疲れてんだよ】

俺の答えを見た幽霊は、大丈夫か、疲れているなら寝たほうがいいという言葉を残して、ふらふらと教室を徘徊し始めた。俺はしばらくその姿を眺めていたが、やがて机に顔を伏した。あいつの言うことを聞くのは癪だが、少し眠ろうと思う。

目を閉じると辺りの音がよく聞こえるようになった気がした。教師がチョークを置く音、左隣の矢崎が足を組み直す音、冨永のうるさいいびき。だがそれも直ぐになくなり、今度は全ての音が遠く感じるようになった。集中しているんだとわかった。

集中している?何に?昔はいつでもどこでも考え事をしていたものたが、この一週間はそういうわけにもいかなかった。何せ常にすぐ隣に人がいて、しかもそいつが喋りかけてくるのだ。こうやってぼーっと何かを考えるのは、寝る直前ベッドで目をつむっている時くらいか。

俺は記憶を辿っているのだ。記憶ってものは酷く曖昧で、どんなに忘れたくないことでも脳から消えてしまったり、都合のいいように勝手に改竄されたりする。俺は忘れたくない思い出を忘れないために記憶を辿るのだ。この先俺が社会人になって、結婚して、子供が生まれて、よぼよぼになって死ぬまで、この想い出を俺の中に残すために、何度も何度も同じ記憶を辿るのだ。

なぁ、お前はそうじゃないのか?大名。




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