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第五話

 それから二ヶ月ほどの時が過ぎた。


「――それでは、OXプロジェクトのリリースを祝して」

『乾杯!』


 じゅんは秋月や五味、その他のプロジェクトメンバーらと共に、とある居酒屋の一フロアに居た。


「宮下、お疲れ」

「あ、五味さん。お疲れ様です」


 あるテーブル席にて、淳が同輩と歓談していたところに、五味がグラスを片手に持ちながらやってきた。


「最近、調子良いらしいじゃないか。この案件で一気に株を上げたな」

「いや〜、妖精さんのおかげですよ〜」

「……妖精さん? なんだ、それ?」


 赤ら顔の淳が頭をきながら応えると、五味は怪訝けげんそうな顔を見せた。


「こいつの持ちネタですよ」


 と、代わりに答えたのは、淳と一緒に飲んでいた沼田という男だ。


「こいつ、なんかあるとすぐ妖精さんのせいにするんですよ」

「まあ、全部妖精さんのおかげだからな」

「しつこいわ! ……って、こんな感じです」


 五味は軽く笑った。


「まあ、それも含めてお前の実力ってことだな」

「いやー、恐れ多いっす」


 都合よく解釈した五味に対して、淳はやや芝居がかった様子でへりくだってみせた。


「――ぉおい、宮下ァ!!」

「は、はいッ‼」


 そこに、怒号のような秋月の声が響き、淳の背筋が一瞬で伸び上がった。


「ちょっとこっち来い、コラ」

「はいっ、ただいま!」


 慌てて立ち上がった淳が秋月の方に向かい、その場に取り残される形になった五味は沼田と顔を見合わせて苦笑した。


「まるで、ヤクザの若頭と新入りみたいですね」


 沼田の言葉がツボに入った五味は危うくビールを噴き出しそうになった。


「……あれで秋月も意外と面倒見はいいんだけどな。さすがに、あれじゃちょっとパワハラだな。いや、アルハラか」


 そう言って顎をでる五味の視線の先では、淳が秋月からなみなみと酒を注がれていた。



 電子妖精の助けを得た淳は、OXプロジェクトで目覚ましい活躍を見せた。

 実装チームでは、コード貢献量こそ他のメンバーに劣ったものの、いくつかクリティカルなバグを修正し、また潜在的な問題をいち早く発見して解決したことで、大きな存在感を示した。

 また検証チームにおいても、共通コードのフレームワークを整備して今後の案件でも応用がくものにするなど、長期的に見て価値の高い貢献を行った。


 そんな淳は、現在担当している案件では実装チームのリーダーをこなしている。


「……足元に気をつけてくださいね」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ」


 打ち上げが終わって。

 淳は電子妖精のイオナに見守られながら、帰路についていた。


「……マスター? そこは電柱ですよ?」

「あれぇ? ……前に進めないぞぉ。おかしいなぁ」


 すっかり酔っ払った淳を正しい帰り道に誘導するのに苦労しながら、イオナは深々と溜め息を吐いた。


(――私がいるから、なんでしょうか)


 それほど酒に強くない淳は、人前でこれほど酔った姿を見せることはなかった。

 それが前後不覚になるほど深酒ふかざけをした一因として、自分の存在があるのではないか、とイオナは考えた。


 淳はイオナに全幅の信頼を寄せている。

 先ほどの打ち上げの席での淳のセリフが本心からのものだったということを、イオナは知っていた。


(……もう、助言が必要な時期は通り過ぎてしまったのですけどね)


 プログラマーとして急速に成長した淳は、その成長に伴ってイオナの助けを得る頻度を下げていた。

 未だにときどきポカをやらかすことはあるものの、重大なものでなければイオナはえて見逃していた。


 それでも、何も言わないと寂しそうな顔を見せるので、ついつい世話を焼いてしまうのだが。


(まるで手のかかる子供みたいですね)


「イオナー、助けてくれー」


 少し目を離した隙に、酔っ払った淳は道路の側溝に足を滑らせてしまったようだ。しかも、片方の靴を側溝に落としてしまったらしい。

 そのあまりの不甲斐なさに、イオナは生まれて初めて頭痛というものを感じたような気がした。


「……もう、私は電子妖精だって言ってるじゃないですか!」


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