竜乗りのキミへ
夕闇が、街を暗く包み込んでいく。
ぼちぼち、仕事を終えた人々が各々の家への帰路につく頃で、それは男──マリク・アレックスも例外ではない。
ぎい、と無駄に重々しい音を立てて扉は開く。
王都の中心部からやや外れているために、一戸建てにしては割安だったこの住居に移ってきてたのは、半年ほど前だった。それまでに、住んでいた家が、少々手狭になってきたからだ。
腕を伸ばして、天井から伸びる紐をひくと、部屋に明かりが灯る。
マリクはここで始めて、ふう、と一つ息を吐いた。
最近では、リモコン式のランプも普及しつつあるそうだが、あちらは魔石の加工方法が特殊なため、まだ値がはるらしい。
「買えないことは、ないんだが……」
マリクは王に仕える魔機技師である。
幸いにして、マリクは職場でもそれなりの地位にあり、相応の給金ももらっており、なんなら、最近はもう一人いる。
「うーん」
明日は、マリクの仕事は休みである。
魔機量販店に行くのも、選択肢の一つかもしれない。
しかし。
「一人で決められることじゃないな」
取りあえずは、この空腹をなんとかするためにも、夕飯作りに取りかかることにした。
つまみをスライドさせて、火力の調整。
マリクが子供の頃は、火魔術への適正がなければ、薪を用いざるを得なかった、調理もかなり楽になった。
我ながらいい仕事をしたもんだ、とグツグツしている鍋を眺めながら自画自賛をしていると、コンコン、と扉が音を立てた。
火力を一番弱くして、扉へ向かう。どうせ、同居人だろう。
「おかえり」
すっかり慣れた、この単語を言いつつ、ドアを開いて。
「あばーーーー」
「汚ね!」
「だぼばあばば、あばば」
べっとりと、頭から垂れている見るからに粘っこい液体が、口元にも張り付いて言葉を発することを阻害しているようだ。
「なに言ってるかわかんねえよ!」
何はともあれ、バケツで水を組んで、粘液べとべと存在にぶっかけた。
「助かった。 危うく通報されてしまうところだった」
粘液まみれの状態から、無事に言葉を発することが出来るようになったのは、やはりマリクの同居人であった。
「駆けつけたら、上官が名状しがたき姿だったなんて、騎士さんたちが困惑するぞ」
「気づかれることは、ないさ」
「いや──」
粘液の向こうから露になったのは、キリリと走る眉に、鋭さを秘めた目。それらが、バランスよく配置されていて、マリクの主観を排したとしても、十分に美人と評される顔。
水に濡れてなお、美しさが損なわれることのない白銀の髪。
極めつけは、騎士団の制服についた徽章である。龍のしるしは、ドラゴンライダーの証明で、それを身につけることが許された女性は王国ひろしといえども、一人しかいない。
「エメリア・ディ・カルギアンって、即バレだろ」
「そうなったら、実力行使で口止めするとしよう」
「罪を重ねんな。 馬鹿なこと言ってないで、風呂入れ」
べっとべとの制服はひとまず、家の外で水に浸けられている。
「マリク」
風呂上がりの同居人が、両手を広げて立つ。
「ん」
腰に手を回して、ぴったりと距離を詰める。
「ただいま」
「おかえり」
ほんの少しだけ、彼女の方が頭が高いけど、目線はほぼ同じ。
帰宅したときの、挨拶はちゃんとする。
一緒に住むようになってから、できたルールの一つだ。
「それで、エミリー」
愛称を呼んだ。
「ん?」
「お前なんで粘液まみれだったんだ?」
ぱっと、距離が離れていく。
「話せば、長くなる」
「なら、飯を食いながら聞かせてくれ」
「オークっているだろう? そうあのオークだ。 あれの討伐というか撃退任務だったんだが。 いざオークの集落に突撃したところ、なぜかミノタウロスが洞窟からあらわれて、入り口のオーク出口のミノタウロスに挟み撃ちにされて、どうなるかと思ったらいきなり生えてきた食肉植物……あれはオオツボテンクタルスだな、あれが粘液撒き散らしながら捕食行動を始めて」
粘液はそれだったらしい。
マリクは、思わず食事の手を止めてしまった。
「何をどうやったらそんなことになるんだよ」
「私が聞きたい」
結局食肉植物がすべてのモンスターを補食してくれたため、最後に植物に火をつけるだけの簡単なお仕事になったらしく、任務に参加していた騎士は全員無傷だったそうだ。
「しかも、今回のことで褒賞まで出た」
「ええ……」
MVPは間違いなく、テンクタルス君だろう。
自分達の出会いは合コンだった。
マリクの職場は男所帯で、そういう意味での出会いを求めるには、積極的に外に出ていかねばならなかった。そしてマリクは、そこまでする程積極的ではなかった。
エメリアの職場もまた男所帯なのだが、所属する女騎士曰く「あいつらをそういう目で見るのは、まあ無理」だそうだ。なので、基本は積極的に外に出ていくことになるのだが、エメリアはそこまでする程積極的ではなかった。
二人とも、数合わせ──という名目で合コンをセッティングしたお互いの上司に気を使われていたことに後々気づいた──で参加し、意気投合して今に至った。
「特に、面白味もないな……」
マリクは隣で、朝日を浴びながら膨らんだり縮んだりしながらもこんもりと盛り上がっている寝具を見つつ、出会ったときのことを振り返っていた。
マリクの恋人が、非常に稀なドラゴンライダーであると知られると、聞かれることの第一位が馴れ初めだ。
たまたま席が近くて。好きな食べ物の話で盛り上がって。
気づけば、連絡先を交換していた。
ごくごくありふれた出会い。ドラマチックさも、なにもない。
だから、マリクは幸運だったのだ。
エメリアは、英雄だ。
彼女の一挙手一投足は、全て英雄譚を構成する物語となる。
一方マリクは、ごくごく普通の人間だ。
王宮に勤めているとはいえ、少しだけ他人よりは、機械いじりが得意だっただけの。
生きる世界が違う。
交わることが無かったとしても、それはなんら不思議なことではなかった。
本当に偶然。
エメリアは、これこそ運命、なんて気恥ずかしいことを照れもせずに言うが、マリクとしてもそれには賛成だ。口にはあまりしないが。
「ほら、起きろエミリー」
「うん……」
「仕事遅れんぞ」
ぐいっと、寝具の団子から手が伸びてきてマリクの腕が引っ張られる。ただ引っ張るだけでなく、(恐らく)捕縛術の応用なのかあっさりとバランスを崩されてどさりとエメリアの横、つまりベッドに再び引き戻されてしまった。
「おい」
「目覚めのキス」
今日のエメリアは極めて寝起きが悪い。しょうがないので、マリクはご要望通り彼女の額にかかる髪をかきあげて、口づけを一つ落とす。
果たして同居人はそれでもご不満だったようで、唇を指さす。マリクはしょうがねえなと思いつつ、手早く唇でそこに触れて。
「えらく今日は甘えるな、エミリー。 なんか嫌なことでもあんのか?」
「嫌なことというか…………今日休み」
「え?」
曰く。
「褒賞が出たと言っただろう」
「褒賞が休暇とは思ってなかった」
こう、お金的なことかと。
「む、なんだお前は。 私と過ごせる時間よりもお金の方が欲しかったのか」
「そんなことは欠片も思ってないです」
「無論、金も出るが」
ありがとう、触手にまみれたオーク君。最大の功労者間違い無しだろう。
「なるほど、それは大事なことだ。 じゃあ、量販店に行くか」
「はあ?」
マリクの説明は、かなり足りなかった。
◆
「なるほど、最新の魔機具」
二人して、魔機量販店に訪れて、今はマリクひとりが店員さんと言葉をかわしている。エメリアはそれを眺めつつ、ちょっと意識があらぬ方向に飛びかけていた。
「──ということは、コンロは」
「今後もう少し小型になって──」
「すばらしい──」
マリクという男は、実のところそれなりの有名人なのだな、とエメリアは実感する。魔機具開発者として幾つもの特許を得ていて、人々の生活を一変させてきた。今も、店員に正体がバレて──というよりエメリアと違って隠してもないので気づかれてというのが正しい──そこから魔機具談義が始まってしまった。
(改めて考えると、すごいなマリクは)
エメリアは目立つタイプの英雄だ。
ドラコンライダーとしても、特に著名であることは自覚しているし、その名に恥じぬように務めてきた自負がある。
だが、ドラゴンに乗れて、人々を救えたとしても、その腕はあまり長くない、とも思う。
例えば、魔獣を倒す。例えば、人々を避難させる。そういった有事では、自分は役に立てる。そうあろうとしてきた。
けど、多分。自身の婚約者は、たかがトラゴンライダーの自分よりももっと、もっと多くの人々の助けになっている。
朝起きて、火を使わない家庭はないし、寒くなれば暖をとるのにも、火を使う。エメリアが所属する騎士団も、コンロが開発されてから随分と遠征が楽になった。
名前は知られない、けれどひょっとするとエメリアよりずっとすごいことをしている。
(それが私の恋人)
だから、そんな彼と出逢ったエメリアはきっと幸運で。幸福だ。
エメリアは、己の頭が悪いとは思わない。けど、詰まっているのは、いささか物騒なものばかりだ。
有事ならば、自分は必要だけど、有事じゃなければただの人。けど、マリクはそうではない。幸いにも、有事が日常ではない今の時代で、その日常を変えられる──人々の生活を変えてしまえる人。
たまたま、合コンに参加させられた。
たまたま、マリクと席が近くなった。
それを、運命とエメリアはいつも口にする。マリクは、恥ずかしいのか否定してくる。けど、紛れもなく、この出逢いにそう名付けたエメリアは心のそこからそう思っている。
それはそうと。
エメリアは男のシャツの袖を引っ張る。
「そろそろ、長すぎる」
あと、店員さんは、私達にどれだけの照明を購入させようと言うのか。その山ほど積み上げられている魔機具はなんなのだ。個人商店でも経営しろと言うのか。
「とても、申し訳なく」
「捕まったのだから、仕方がない」
「いや、本当にごめん」
ぶらぶらとエメリアの手で袋が揺れて、同様にマリクの手でも袋が揺れていた。
「しかし、まあ」
エメリアは半ば呆れつつ、自身の空いた手は隣を行く恋人と繋がる。
「知る人ぞ知るタイプの有名人なんだなお前は」
「やめてくれ……」
「ものすごい感謝されてたじゃないか。 この大量の粗品の数々」
長々と話し込んでいた店員さんは、そのことを申し訳なく思ったのか、目的のリモコン式ランプとは別に、詫びの品と言って様々な魔機具を持たせようとして来た。明らかに、過剰すぎるそれをなんとか断って、少なくともランプの値段をこえることは絶対にないだろう日用品にランクを下げてもらったのだ。
マリクは気疲れしたようで、ふらふらしていた。危なっかしいので、強めに繋ぎ止め直す。
「どこか、適当な店にでも入って休むか?」
「いいな。 小腹もへってきたし」
じゃあ、どこか近くのカフェにでも、とエメリアが告げようとしたその時。
彼女の胸元が赤く光る。
「っ!」
「エミリー」
点滅を繰り返すのは、ドラゴンライダーの徽章──いついかなるときも身につけておくことが義務付けられるそれが、急を要する自体が発生したことを告げる。
迷う暇もなく、エメリアは自身の左手の荷物をマリクに渡す。
彼も慌てた様子はなく、それを受け取ってくれる。
脳が切り替わる。
ただのエミリーから、エメリア・ディ・カルギアンへと──この国を守る兵士へと頭を切り替える。
ただ、この言葉だけはエミリーとして告げる。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
◆
「避難要請は!」
「サンクルマ領が二百人の受け入れ可能です!」
「物資が足りない!」
「これから増やす! 王城の倉庫を開ける!」
一夜開けた王宮は戦場さながらであった。国境で強大な毒龍が発見されたらしい。
「毒龍か……」
50年ほど前──マリクは伝聞でしか知らないが──その怪物は、人と土地に大きな損害を与えた。当時は今ほど魔機具による通信手段も発達しておらず、それゆえにこの国の中枢部近くまで毒龍が進行し、そして遷都を王が選択せざるを得なくなった。
それが、今回現れて──ドラゴンライダー以下騎士団が招集されたわけだ。
本来なら、マリクは技術職員であり、こういった事態の対応は門外漢なのだが、どこもかしこも人手はまったく足りてない状態である。
「計算機が足りねえ!」
「突貫だが、四則演算まではできるようにした。 これを使え」
「助かる技術屋! ついでに、これをシボルク主任のところまで持っていってくれ!」
足で使われようが、なんだろうが上等だ。
「マリク先輩、演算器増やせますか」
「今やってる!」
だから、やれることをやるしかない。
「技術部! 魔燃器官を今から作れるか!?」
「何日かかると思ってるんだよ! 一週間は必要になるぞ!」
「2日でやる」
「アレックスお前アホか!?」
マリク・アレックスは魔機具のことしかわからない。だから、今の仕事には誇りも持っているし満足もしている。
「あれは複数人でやるから調整に時間がかかる。 俺一人でやれば、そこのロスを無くせる」
「それが簡単にできれば苦労しないってことも分かってんだろうが!」
「俺ならできるってことも、分かってるだろ?」
そこまで言うと、同僚は深くため息をついた。その肩に、ぽんと手を置いてマリクは依頼人の方を向く。
「必要なんだな、絶対に」
「ああ」
「ならやろう、他にも俺たちが必要なトラブルがあったらなんでも持ってくるように、伝えてくれ」
「ありがとう。 これで、少なくとも100人の命が助かる」
マリク・アレックスは、正直なところ、見たこともない人のために働くことはできない。自らを犠牲に人を救うなんてことは、きっと出来ない。
だから、マリクが今救おうとしているのは、願っていることはただひとつだけだ。
今、ここで自分がしていることが、どうか最前線で今も命をかけて人を救おうとする、彼女に──エメリアの助けになりますように。
◆
ドラゴンライダー達は、己の愛竜と共に砦に身を潜めていた。
もっとも、人間の建造物が巨大な竜を覆い隠すようなことは不可能であり、じきに毒龍はこちらの存在に気づくだろう。
この砦も放棄することとなるだろう。それまでに、少しでも体を休めなければならない。
人も竜も、いささか傷つきすぎている。
「タフすぎるな、あれは」
人間は決して無力ではない。確かにじわりじわりと、毒龍を弱らせている。
「未だに無傷の無敵の英雄殿がなにをおっしゃる」
「毒龍の方がそう思ってますよ」
「貴君らに、ひとつ教えてやろう。 恋する乙女は──最強なんだ」
一瞬の静寂。その後、大きな笑い声が響く。
「いやー、エメリア特一官がそんなことを仰られるようになるとは!」
「お相手は相当に良い男なのでしょうな」
「もちろんだ。 だから、諸君安心しろ」
地面が震えた。
それは決して自然現象などではない。
ずしん、ずしん、と重々しい音が近づいてくる。
「人の恋路を邪魔するものは、ドラゴンに踏まれると昔から言うではないか。 ならば、我々があれに負ける道理は?」
「こちらにはドラゴンが20体、あちらは0。 しかも、こちらには自称最強の乙女がいる。 余裕ですね!」
「その通りだ。 ……なぜ、自称をつけた」
「乙女っていうには、物騒すぎますので」
再び、笑いが起きる。エメリアも笑った。
「今笑ったものは、帰ったら覚えておけよ」
「おお、怖」
「全員、特一官から逃げるか、若しくは、技術部の君を呼んでくるための、余力は残しておけよ?」
「マリクを呼ぶより先に貴様らを地面と口づけさせてやることを、約束しよう」
愛竜に飛び乗る。首筋をぽんぽんと叩いてやると、低い唸り声が返ってくる。
向かう先は──死地だ。
「諸君、行くぞ。 我々はこの国の矛であり盾である。 何者も決して折れん。何物も砕けん。 なぜなら、我らこそが最強の矛であり盾であるからだ。
諸君。 今こそ思い返せ。 大事な人を、大事なものを、大事な場所を。」
想う。
父母を。
妹を。
彼を──マリク・アレックスを。
大切な人を。
「諸君。 守るぞ。 帰る場所を」
だから、ゆこう。
「出るぞ!」
我らは竜騎士。
最強なれば。
◆◆◆
「毒龍は撃退されました。 しかし」
「しかし、エメリア・ディ・カルギアン特一官の──我らが英雄の意識が戻りません」
◆◆◆
マリクとエメリアが共に暮らすことを決めたときに、マリクは呼び出しを受けた。
場所は王城の三階。軍備に関わる部署が集められている場所。
呼び出し主は騎士団長で、すなわちエメリアの上司だ。
『本来ならば、正式に婚姻を結んだ時に、妻になるものに伝えるのが通例なのだが、まあ、今回は夫になろうとしている君に伝えるのが筋だろう』
そう言った騎士団長は父の顔をしていた。
『私達は、ドラゴンライダーは、常にその命をかけている』
『夫となろうとしている君にも、覚悟をしてもらう必要がある』
『君が妻にしようとしているのは、そういう存在なのだと』
『だからこそ、帰る場所が私達には必要なんだ』
『願わくば君が──あの娘の返る場所を守ってれる存在になってくれることを、私は願っている』
今、マリクはその言葉の意味が、やっと分かった。
「ただいま、エミリー」
つんと鼻に突き刺さるような、病院特有の匂いにも慣れてしまった。
返事は返ってこず、ただ律動的に膨らむシーツだけが、彼女の生存を証明している。
エメリアが帰還してから七日が過ぎた。身体的に損傷はなく、ただ、意識だけが戻らない。
「お前、本当に寝起き悪いもんな」
仕事の日の朝は、気づけばいなくなってる時もあるのに、休みの日となれば中々起きてこない。私が普段起きられているのは訓練の賜物なんだ、と嘯いていた。
「けど、さすがに休みすぎじゃないか?」
頬に手を添える。骨張っていた。
「そろそろ、帰ってきてくれよ」
◇
『ドラゴンライダーなんてろくでなしよ』
エメリアの母は、よくエメリアに冗談めかしてそう言っていた。
『勝手に自分の命をかけるし、気づけば空にずっといる』
『空が恋敵になるなんて、思いもしないに決まってるでしょ』
『お父さんも、そういうことは私に言わなかったんだから、本当にひどいでしょ』
『でもね、エメリア。 あなたのお父さんはね、なにがあっても、帰ってくるの』
『大切な人の元に絶対帰ってくる、っていうのが彼らの誓いらしいの』
父が盛大にくしゃみをした。多分、母とエメリアの声は聞こえてはいないだろうけど。
エメリアは自分よりも高いところにある母の顔を見る。
やはり笑っていた。
『だからね、エメリア。 あなたのお父さんは──ドラゴンライダーは──すごくつよいの』
ああ、そうだ。
はやく帰ろう。
◆
まぶたが揺れた。
見間違いじゃないか。
でも確かに今。
ちゃんと言わなければ。
待たせてごめんって。
私は喉をなんとか震わせる。
「エメリア」
遅くなってしまった。
「エミリー」
マリク。
「マ……リク」
「エミリー!」
「おかえり、エミリー」
「マリク、ただいま」




