長い夜 【月夜譚No.250】
地下道に水音が響く。ここではそれがデフォルトだろうが、今はそれすらも心が擦り切れる要因になる。できれば静かな、無音の空間にいたい。
息がし難くて胸を押さえると、太鼓のように心臓が鳴っているのが判る。耳の奥にも響くようだ。
地下道の隅に屈み込み、息を殺し、目を瞑り、時が過ぎるのをひたすら待つ。大丈夫、大丈夫と自身に言い聞かせる内なる声は、安心するどころか不安を増幅させているようにも感じる。
あれから、何時間が経っただろう。外はまだ夜闇に包まれているのだろうか。確認したいが、外に出ていく勇気が出ない。
朝が来れば何もかもが解決すると、彼は言っていた。だからそれまでじっとしているようにと。
彼は無事だろうか。最後に見た恐ろしい巨躯がずっと脳裏にちらついて、最悪な結末しか想像できない。
朝陽が昇れば、問題はなくなる。ただそう信じて、水音を耳に入れながら耐えるしかなかった。