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青と橙  作者: みいなん
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さいしょ。

轟々と燃える焔のような青色の髪をしていて、肌が透き通るように白い少し風変わりな人間。いや、頭部に動物の耳を生やした「エフォート」という種族の少女がいた。そんな一般社会に溶け込むことの出来なさそうな、奇異の目にさらされそうな、少女の名をテウメソと言う。

テウメソが住んでいる、エルピスという標高2,917mの山があった。エルピスが作り出す銀世界は見た者を病的に虜にしてしまうほど綺麗だった。しかし、そんな綺麗なエルピスを誰も登ろうとしなかった。なぜならその銀世界は、入ってしまえばその一面に広がる銀が方向感覚を狂わせ、遭難してしまい、ふり続ける雪は濃霧のようで、入った者を拒絶して横から殴りつけてくる。極め付けに、エルピスで人を無差別に殺す「少女」がいるという噂まであるからだ。エルピスに登るような人間は別離の悲しみを背負った、死にたい者以外いない。こんな過酷な環境に適応した動物や、テウメソのように未だ見つかっていない謎の種族が暮らしている。

私の名前は[     (聞き取り不可)]です。

エルピスの麓に建つ、その土地特有の白い木を使った家に一人で住んでいます。

一応、所有者は私ということになっているはずなので、不法侵入しているわけではないです。

ここらへんは住むのに難しいので、人も寄り付きません。半径2kmぐらいまでは私有地と言っても過言ではありません。でもたまに物好きな人がエルピスを近くから見ようと、麓までやってくるので、その時は丁寧な対応をして追い払っています。


さてと、そろそろ食事の時間ですね。テーブルに料理を運びましょう。料理と言ってもこの亡骸を焼いて、近くの町で売られている塩コショウをかけただけのものなんですけどね。

料理と共にテーブルに付き、自分の目にこの亡骸を見せておきます。

この亡骸も必死に生きてきたのでしょう。だから他人事のように追悼し、その努力を尊重して私は私なりの敬意を表します。

手を合わせる、

目を閉じる、

祈って、口を開く。

「いただきます」

うん、美味しいです。骨の髄まで無駄にしないからね。

寒さからか、少しばかり震える手を疎ましく思いながらコップに注いだ亡骸の血を亡骸と共に口腔内へ、食道へ、胃へと一気に流し込みました。

でもこんなことをしてもこの亡骸の努力を無下にしたことには変わりないです。この亡骸が今まで堆積させてきた努力を私は知れなかったけど、努力というものは内容を知らなくても素晴らしいものなのです。とっても大好きです。それに、努力は恒常的に御膳上等の品を出してくれます。

だけど、矛盾しているのですけど、私は今食べた、この亡骸の努力が好きではないのです。この子は他の努力を嘲笑いながら生きてきました。これからもずっとこの子の努力を、私は好きにはなれないでしょう。なのに、この子ことを考えただけで今、私のこの両目からとめどなく流れる涙は何なのでしょうか。心憂いです。両目から流れる涙が心憂いです。涙が口に入らないよう、うつむきました。いつのまにか、口の中には久しぶりに味わうジーンとした酸っぱさが命乞いするように、残っています。

きっとなんとなくみなさんもわかってしまったと思いますが、この亡骸は私の知り合いです。泣いているのは、そのせいなのです。人の見た目をしている何かを私は、亡骸にして焼いて塩コショウをかけて食べているのです。

一旦、机に顔を向き直しました。冷めるともったいないので、早めに残りも食べることにしました。


食事も終わり、お片付けをして、机の上にペンと紙を用意しました。

今から葬り去ろうとした責務を果たそうと思います。

私が今から筆を走らせるのには、理由があります。

この子が恋しいのです。自分から望んで食べたくせに、恋い焦がれて苦しいんです。思い出すためにこうしたいのです。

では、なぜ私がこの子を食べることになったのか、私は誰なのか、焦らずゆっくり、つらつらと書きましょう。


「青と橙」

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