プロローグ
彼女はずっと私と一緒にいました。ええ、眠る時も起きる時も一緒だったのです。私達の顔は本当にそっくりで、まるで双子のようだと言われていました。
事実、私達のことを双子だと思っている人もいたでしょう。それは大きな間違いだったんですけど。
でも、何て言ったら良かったんですか?
実は彼女は人間ではなくて、私を呪って運気も幸福も気力も。そして、生命力でさえも。吸い取るような呪いの道具なのだと、人の形を為している呪具なのだと。
どうしてそう、説明が出来るんでしょう?
「あなたたちは本当に仲が良い双子ね」と、そう人から言われる度に。私はにっこりと微笑んで「ええ、そうなんです。リンファと私はずっと一緒なんです」と。
そう答えるしかなかったんです。
でも、勘違いしないで下さい。私は何も不幸だったという訳ではありません。むしろ彼女を実の妹のように愛していました。
おかしいでしょうか?
私はいずれ、彼女に命の全てを吸い取られてしまうというのに。
それでも彼女を実の妹として愛していたのです。血を分けた肉親よりも何よりも、彼女が私の傍にいてくれました。
雨の日も晴れの日も、私が風邪で寝込んでしまった時も夜眠れない時でも。彼女がいつもいつも、その柔らかな手で私の手を握ってくれたのです。
それは真夜中の砂漠で一番星を見つけたかのような、そんな静かな幸福でした。
おかしいでしょう?
私はいつか殺されてしまうというのに。そしてもっとおかしなことに。
私を呪い殺す筈の呪具でさえも、私のことを愛していました。幼い頃からずっとずっと一緒だったのです。
彼女は気性が荒い所もありましたが、幼い子供、特に動物には優しかったのです。春には野の花を摘みに行き。雨の日は二人で詩歌や書物を読んだりして、楽しんでいました。
ええ、そうですね。きっと今でも彼女は私の大事な家族なのだと思います。
彼女が本当のところ、どう思っていたかは知りません。術者の意図通り私を殺したいと思っていたのか。
でも、猿だって木から落ちます。彼女は呪具としては三流も良いところだと常々言っていました。
私が大事で仕方が無い、とは彼女の口癖でした。術者である叔母がそのように組み込んだのか、どうか。
それすら曖昧であやふやでしたが、彼女も私も苦しんでいたのです。だから呪いが成就してしまう前に、私が二十歳となって死んでしまう前に。
私の両親はとある死霊使いに依頼したのです。ええ、その時は私も大変驚きました。
あの人たちは砂漠を彷徨う民で、ジプシーのようなものです。そんな常々けがらわしいと卑下しているような、高潔な両親がまさかあんな人たちに頼むだなんて。
当時十八歳だった私は、それはもう喜びました。リンファと一緒になって喜んだものです。
おかしいですよね、彼女は呪具なのに。
でも私達は生まれてから今まで一度も、館の外に出たことがありませんでした。今でこそこうして自由に外に出て、村の人たちや出入りの商人さん達とも話せるんですけど。
でも、どうしてでしょう?
あの当時、私達は外出を許されていなかったんです。神経が細い母からすると私達が双子のようだって、そう揶揄されるのが嫌だったのかもしれません。
だってあのお屋敷の女の子は実は一人だけで、残りは全部呪具なんだよって。
そう、勿論。呪具の女の子は一人しかいませんでした。でも私には他にも数人ほど、腹違いの妹がいたのです。
それなので口さがない街の人々はそっくり同じ姿形の私達を見て、嫌な笑い方をしたものです。私の父が借金取りだったということもあるみたいです。私の父は随分と沢山の人から疎まれていましたから。
私?
私はよく分かりませんよ、そこまで父と一緒にいれた訳じゃありませんから。父は娘である、私のことを視界に入れるのも嫌だと言った風情で。
だって、彼女がついてくるんですもの。リンファはいつもいつも私と一緒でした。
その名前でさえも私が勝手に名付けたものでした。でも、当時の私は二歳だったのです。家の者は「リンファだなんて、どこから思いついたんだろう?」と、そう首を傾げたものです。
だって私の周囲にそんな名前の人物はいなかったんですから。でも、二歳のあの当時から。
私の妹のように可愛いリンファは、ずっとずっと私の傍にいることになったんです。
そう、あの。
美しくて死神のように恐ろしい、死霊使いの夫がやって来るまでは────────…………。




