490.ここ100年の暗躍〜ジルコミアside
「ゲドグルの話から、私が預けた魔具をゲドグルに預けたのは、聖女であった私が死んで40年後。
少なくとも人属だった王配は、すぐに後を追わずに寿命分を生きていたんでしょうね。
私の魂が干渉を受けた事と、本を確実に転生した私へと渡るようにしたかったんじゃないかしら。
どちらにしても寿命分を生きた王配が、転生するタイミングをずらした可能性は否定できない。
その上で魔族となって繋がりが切れたなら、転生のタイミングが合わなくても仕方ない。
実際、100年前の張り直しに間に合わなかったのはそのせいだったらしいわ」
「らしい?
まるで王配には再会できたみてえな言い方だな」
「ふふふ、その通りよ」
ベルヌの話に同意しつつも、王女の口調が刺々しく感じる。
どうしてだ?
「100年前に結界を張り直し、王配とも会えないばかりか、はぐれ魔族となった私は、転生するのが怖くなった。
魔王の干渉にあって、次の転生した自分が想像できなかったのも大きいわ。
けれど力の大半を失っても、魔族の肉体の特徴である長命と魅縛の力は残っていた。
だから方針を変えたの。
大して魔力のない、野心だけは人一倍あった教皇とマーガレットに目をつけた。
その2人はこの100年の間に思っていた通り、財源を確保して私利私欲を肥やしていた。
ゲドグルのレプリカによって若さを保っていたけれど、レプリカは所詮レプリカ。
特に当時のレプリカは初期も初期だったから、本物でなければ老いを巻き戻せなくなっていたみたいね」
クスリと嗤う王女と、そんな王女を決して視界に入れまいとする教皇とマーガレット。
今の時代に近づくにつれ、謎が紐解かれていくが、吐き気のする話ばかりで嫌気がさす。
ベルヌも同じだろう。
顔が険しいままだ。
「だから娘の魔具を餌にする事は簡単だった。
この頃よね。
ゲドグルとベルヌ、ジルコミアがアドライド国の騎士や魔術師として活躍し始めていたのは」
「ああ、そうだ。
俺達が第1王女だったお前と会ったのは、ゲドグルの仲介だった。
それを狙ってゲドグルをアドライド国の魔術師団に入れたのか?
お前が張り直した100年後になるのか?
今から約16年前だ。
霧の神殿が無害の状態で結界が解けたのは、狙い通りだったのか?」
そうだったな。
最初から仕組まれていたと考えるなら、ゲドグルが私達に王女を引き合わせたところからだ。
「そうねえ、大半は偶然よ。
アドライド国はここ100年と少しの間に魔法はもちろん、技術革新が起きているわ。
ゲドグルがアドライド国の魔術師となったのは、彼がただそんな国に興味を持って自分から飛びこんだにすぎない。
私は遺憾ながらも得てしまったこの魔族の体と特性を使って、再び世界の女王となるべく暗躍を始めたから、正直ゲドグルに興味がなかったもの」
「再び安全に転生する為……じゃねえよな?」
ベルヌは転生した様子のない、魔族のままの王女にどこか確信をもって問い質す。
「そうよ。
魔族となってしまった以上、転生なんて悠長な考えは完全に捨て去ったわ。
私はまず、世界情勢からイグドゥラシャ国へと渡り、王族に紛れる機会を窺った。
イグドゥラシャ国は立地と国力、軍事力的に世界を統一する拠点とするのに使えると思ったわ。
それ以外の国々は100年前は今のような同盟もなく、特に個々の独立心が強くてバラバラ。
一国単位で見ても国力が弱いくせにね。
お陰でいつでも征服できそうな状態だったわ。
逆にアドライド国だけが突出していた。
グレインビル一族の他にも妙に強い一族が国防の要にいて、入りこむのは容易ではなかったし、拠点としてはいまいちだったから違う形で時期を見て入りこもうと思ったの」
「違う形……」
「思い当たったようね。
イグドゥラシャ国の国力を幾らか上げた上で、適切な時期を見て王女として王太子の元へ嫁ぎ、魔族の体に宿る魅縛の力をその時の王太子に使えば良い」
「それだけじゃねえよな」
「ふふふ、その通りよ。
イグドゥラシャ国はアドライド国とは海を挟み、それ以外の方向は他国に挟まれている」
「だから……16年前、霧の神殿の結界を張り直さなかったと?」
ギリ、と歯を食いしばるベルヌの目は、殺気を宿していた。
私の知らない何かに合点がいったかのように、何かを悟っているようでもあった。