485.時間を操る魔具〜ジルコミアside
「ちょっと、離しなさい!
私はこの国の側妃よ!
誘拐犯の、それも獣人ごときが触れて良い存在じゃないわ!
何が復讐よ!
それらしい事を言っても、たかが獣人が殺されただけ……」
女王の命令に従い側妃を押さえつけていれば、側妃は暴れながら口汚く罵り続ける。
それを聞くにつれ、どこか靄がかったような鈍い思考がクリアになっていくように感じた。
徐々に怒りが湧いてきて、怒りが本能に働きかける。
「さすが獣人を蔑視する国の側妃だな!」
「きゃあ!」
気がつけば怒鳴りつけながら、片手で側妃の両腕を後ろ手にして捻り、もう片方の手でその後頭部を押さえつけ、地面に額を擦りつけさせていた。
「い、痛い!
放しなさいよ!」
「うるさい!
命令通りにしているだけだ!」
自分の感情でそうしている事を自覚しながらも、再び怒鳴り、更に押さえつける力を強める。
隣でベルヌに動きを封じられている教皇は、相変わらず顔色を青くし、黙って震えているだけで庇うつもりは毛頭ないらしい。
ベルヌが私をじっと凝視しているのを横目で確認する。
牢の外にいる女王も……いや、違う。
王女もまた、そんな私を観察するかのような視線を投げているのを肌で感じる。
「くっ……ね、ねえ、聖女様!
助けて!」
私への命令を撤回させようとしてか、側妃が王女へと必死に懇願し始めた。
それにしても、どうして私はあの王女を崇拝してしまったんだ?
思考が徐々にクリアになっていくにつれ、怒りとは別に疑問が生じ始めた。
「あの時だって、わ、わざとじゃなかったのよ!
聖女様に仕えている内に、側にいたあの聖騎士様に少しでも私を見て欲しくなって、そこをこの男がつけこんだの!」
「な、何だと?!」
自分の事しか見えていない側妃は、早口で教皇に罪をなすりつける。
矛先が自分へと向いた教皇は、気色ばむ。
「だから結界に力を注ぎきり、倒れた私を引きずり倒してそこの醜悪な男と共に笑いながら、私の目をくり抜いたと?
くり抜いた魔眼は、オークションで売り払ったんですってね?
高く売れたかしら?」
薄っすらと微笑みを浮かべた王女は、凍えるような声音で2人に尋ねた。
魔眼?
そういえば、魔眼が最後に出回ったのは200年前だと記録にあった。
もしかして、それが?
「あ、あああ、あの時は!!
そう、だからあの時はそいつに唆されただけなの!
決して笑ってなんか……」
「黙れ、この女狐が!
結局その聖騎士に見向きもされず、両眼の無くなった聖女を連れ去られたであろうが!
全部お前のせいだ!」
「何ですって!」
醜い責任転嫁を始めた2人は、王女によって暴かれていく罪を肯定するかのように必死だ。
「本当に、意地汚い。
あなた達は当時の神官や聖女候補の中では魔力が少なかったけれど、野心だけは飛び抜けてあった。
そこを見込んで教皇や聖女になり得る実績を積ませ、育ててあげたのに……失敗したわ」
「はっ、自業自得だろう」
手を放せば側妃に掴みかかりに行きそうな教皇を、しかし種属と日頃の鍛錬の違いから平然と抑えているベルヌが笑う。
「仕方がなかったわ。
今のような魅縛の力も無かったし、100年後に再び転生するまでの間、更に教会の権威を上げて後継者に引き継がせそうな人材が、その男しかいなかった。
マーガレットはたまたまよ。
使い勝手が良くて側に置いていただけ。
随分と勘違いして傲慢になっていったから、どこかで切り捨てるつもりだったわ」
王女の射殺すような視線を感じてか、側妃はビクリと体を震わせ、とうとう地面に額をつけたまま押し黙った。
「それだけ教会の権威も、集まっていた寄付金も上層が腐敗して食い潰しそうなほどだったから、選ぶのが難しかっただけ。
それでも教会やこの国が人属至上主義でなければ、当時の私とこの2人がせめて獣人属なら、ましだったかもしれないわ。
ベルヌも知っているでしょう?
時間を操る精霊石の入った魔具。
あれは霧の神殿に閉じこめた、私の娘だった赤子が生み出した魔具なの。
それを手に入れられるとは思っていなかった。
仮に私が結界の修復後に生き残っていても、この2人共々100年以内には、代替わりするものだとあの時点では思いこんでいたわ」
王女と初めて会った時は、イグドゥラシャ国の第1王女だった。
けどいつの頃からかある魔具を使い、市井で見つかった第2王女として一人二役をこなしている。
いつもご覧いただきありがとうございます。
前回の投稿では、数日間おかしな内容にしておりました。
気づかずに予約投稿にしていた模様(^_^;)
申し訳ないm(_ _)m
修正しておりますので、よろしければご覧ください。