475.心臓病の一種〜ギディアスside
「ひとまずバルトスは、多分来ないだろうけどこの部屋に人が入らないよう見張っておいて」
「チッ、運の良い奴らだ」
奴らって、いつの間にかナグも彼の可愛い天使を狙う輩に認定されているよね?
もちろんナグが天使を見つけてしまったら、間違いなく興味を示したはずだけど。
だって私達は幼い頃からの互いの性格を、目標を知る同士だからね。
ナグが興味を惹かれる事くらいはわかる。
「幼い頃に誓い合った事を、今でも覚えているかい?」
もっとも彼の妹であるスティリカ第1王女が、幼いながらも品行方正だとナグの口から直接耳にした頃から、徐々に親交が減っていった。
私と王女が婚約した頃には、個人的な親交はほぼなくなっている。
「無論だ。
互いの国に良い発展をもたらそう、大きな紛争はないものの、良好とも言えない両国の関係を良好にしていこう」
「そうだよ。
本来なら私とスティリカ王女が婚約を結ばなくとも、私達の代でアドライド国もイクドゥラシャ国も実のある関係を築いていけるはずだった」
「ああ、そうだ……すまな……」
「イクドゥラシャ国王の状態は?」
「まるで狂信者のようにあの女に従っている」
「……そうか。
状況次第で強制的に譲位させなければならない。
覚悟は?」
「……とうにできている。
だが残された時間は短い。
急がなければならないだろう」
この国の国王は、間違いなくルドルフの伝えてきた魅了に侵されている。
魅了は魅縛へと変われば、解除できないと聞いた。
もし国王が魅縛されているなら、王太子であるナグが自らの手で国王を引きずり降ろし、国王の座に就かなければならない。
「幸いなのは、あの女がいない事。
国民も諸外国も国内外の平穏を望んでいる事。
そして君のその心臓病は、不治の病ではなくなったという事だ」
「…………は?」
ポカンとするナグを見つめながら、懐から小瓶を取り出す。
ミシェリーヌ第2王女であり、スティリカ第1王女でもある何者かが探していた心臓病の特効薬。
それがこの小瓶に入った液体。
アリアチェリーナ=グレインビルがファムント領の洞窟で採取したという、光る苔を原料にして精製された薬。
何百万人に1人の割合で発症する、心臓病の一種。
それはグレインビル夫人やヒュイルグ国の王弟が患っていた、心臓の形状由来から起こるものとは特徴が異なる。
史上3人しか存在していないとされる、体内の魔力が全くない者を除き、全ての者の体には魔力が常に循環している。
その機能が損なわれて循環不全を起こし、心臓に魔力が蓄積して負担をかけてしまう。
それがこの心臓病だ。
そうやる理由は魔法の酷使であり、魔力の大きさに体の循環機能が追いついていない事から起こるとされている。
多くは遺伝とも言われるが、それは定かとは言い難い。
しかし幼少期よりその兆候が現れ、しかし重篤になる前に自然と緩解する事も多い。
稀にナグのように後天的に現れる場合もあるが、そうした場合は日常生活にさえ注意し、魔力を過度に練り上げるような魔法さえ使わなければ、重篤になりにくい。
なのにここまで酷くなった。
ずっと疑問だったが、当初は実の妹だと思っていたミシェリーヌ第2王女が現れた事から、遺伝性だったのだろうと思いこんでいた。
けれど先ほどバルトスが掃除ついでに消した、体内の魔力を狂わせる類の魔法陣。
あんな物を部屋に設置していたせいに違いない。
本来なら今のナグのような状態であれは、間違いなく治癒は不可能となる。
だから後継者をナグからスティリカ第1王女に交代させる話がでていたんだ。
「その、薬は?」
どこかほの暗く、焦燥を感じていた表情に、希望の火が灯ったようだ。
「とある天使からの贈り物。
ただ私はこの薬を試した事はないし、とはいえ、これ1本しか持っていない」
「……信じる価値が、ハァ、あると?」
「私は効果を信じる価値があると思っているよ。
けどナグが拒否して、ひとまずの王位の奪取と国の平和を望むなら……」
「そなたを……信じるしかある、まい」
ナグは私に向かって気怠げに手を差し出した。




