471.紫暗の侮蔑〜エリュウシウェルside
「今すぐここから秘密裏にエリュウシウェルを遠ざけたいが……やはりこの状況は、師匠が?」
「ああ、そのようだ。
多分、ここかこのあたりに……」
剣を扱う者特有の固い手が、初めは両腕、次に両耳に触れてきた。
女性のはずだが、その感触は男性に近いなと、ぼんやり思うも、そこで初めて自分の耳に、金属のような固い何かが装着されていたと気づく。
「ああ、やはりな」
その何かを取ってくれるのかと思ったが、予想に反して手が離れていった。
「あったようだが、取らないのか?」
ぜストゥウェルも私と同じく不思議に思ったらしい。
「見る限り魔力の枯渇が酷いだろう。
起こしてもまともに動けるとは思えない。
先ほどすれ違った側妃といい、教皇の言動といい、エリュウシウェルに何かしようとしていたのは間違いないし、下手に動かさない方が良い」
「ああ。
エリュウシウェルをこれまでのような傀儡にできなくなって、焦っているのだろう。
しかしそれなら余計に……」
「そうですねえ。
あの王女のように、第3王子を魔具で魅了しようとしたのでしょう。
しかしチラリと見えましたが、魔具にヒビが入っていましたから、できなかったのでしょうねえ。
ふふふ、どうやら幻視を付与していたらしい、その耳元の魔具が弾いたのでしょう。
随分と効果も効率も高い魔具のようです。
実に興味深い。
外したなら私が貰い受けたいくらいですよ」
ねっとりと絡みつくような視線を感じ、背筋に悪寒が走る。
何だ?
気持ち悪いな。
このまま寝たふりしていて大丈夫なのだろうか……。
「悪いが、気持ちわ……いや、とにかくそういう視線を向けないでくれ。
あと、もう少しベッドから離れて欲しいのだが……」
どうやらゼストゥウェルも同じだったようだ。
頼む、今回だけはこのまま庇い続けてくれと、願ってしまう私は悪くないはずだ。
「……レイがそれを着けたのは間違いない。
だとすれば、そなたがそれを無理に外すなり、なにかしら手を出せば、一周回ってアリー嬢の怒りを買うかもしれないが、良いのか?」
「それは……まあ彼女は極度のブラコンというやつですからねえ。
紫暗の瞳から発する侮蔑の眼差しを向けられるのは、ゾクゾクしてたまりませんが、ブラコンサイドからの怒りは、買わない方が良いでしょうねえ。
あんなに可愛らしい顔で、中身は腹黒く苛烈ですし、馬に蹴られるのも2度とごめんです。
諦めた方が良いでしょう」
「相変わらずの変態だな……」
「……アリー嬢の侮蔑の視線……わからなくも……」
「……え?」
ゲドグルの発言に、女性の方は、かなり引いただろうと感じた。
アリー嬢、というのはグレインビル嬢だと話の流れから把握する。
しかしゼストゥウェル、何故理解を示した?
もちろん私も女性の驚きの声に同意……紫暗の瞳の侮蔑、か。
……悪くはない、のか?
私が怒らせた時の、冷たい瞳も悪くはなかっ……ハッ。
いや、悪いだろう!
絶対癖になどならないぞ!
私は絶対にハスキーな女性の声に共感だ!
変態2人には、どちらもドン引きだな!
大体ゲドグルの侮蔑されて発言のあたり!
絶対変態らしい顔をしていたのが容易に想像できる声音だった!
そもそもこいつ、もしかしなくともグレインビル嬢に誘拐以外で何かをやらかしたのだろうな!
一体何をやらかしたのだかな?!
「ハッ、いや、それより、そう、馬だ。
馬とはあの兄妹だろう。
むしろアリー嬢にベタ惚れな、馬の怒りを買って、よく無事でいられた」
焦ったように早口で話すエリュウシウェルの言葉からして、馬に蹴られるって、物理的に蹴られたという事だったのか?
そういえば、グレインビル嬢の3頭の炎馬伝説を在学中に聞いた事があるが、まさか本当だったと?!
腹黒も、義理家族達が絡んだ時は特に苛烈さが際立つ性格も、極度のブラコン、というか、ファザコンでもあるだろう義理家族信者なのは、これまで接してきて疑いようもない。
しかしたかが魔具1つを取るだけで、多分実力が十分あるはずの、元アドライド国魔法師団長であるゲドグルの動きを止めるグレインビル嬢も、馬の存在も……ちょっと恐ろしくないだろうか。




