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465.誓約〜ロアンside

「回復魔法をかけた方が良いのではないかしら」


 まったく、この子は過保護だな。


 息子が異母弟の元へ行くと、黒豹属に扮するアドライド国第2王子と転移してから、ずっとこの調子だ。


 息子への心配もイタチに振って、気を紛らわせているに違いないこの子は、2人いた息子を1人失った。


 亡くなった次男は神童と呼ばれるほど、幼いながらも物覚えが良く、魔法の才に恵まれていたという。

けれどどちらの息子も、愛情深いこの子にとってはかけがえのない子供達だっただろう。


 やがて次男はどうやってか、闇の精霊を見つけた。

そのせいで光の精霊王を信仰するフェルメシア教会は、警戒したのは言うまでもない。


 そう、初めは警戒だったはずだ。


 しかし次男は闇の精霊から、このザルハード国の真の成り立ちを聞かされてしまったのだと、ある日私はこの子に相談された。

正確には、次男の身に危険を感じて、隣国の筆頭公爵である私に次男を預けたいとの事だった。


 この国の皆が知る、そして聖フェルメシア教会の礎ともなっている、建国500年の歴史。

それこそが誤っているという、ザルハード国の国王夫妻と、ごく限られた者だけが知る事実。


 500年前に現れた光の精霊王が魔族から人々を守り、精霊王と契約してその守護を得た者が王となり、国を興したという、あの話。


 けれど私達の行動は一足遅く、この子の産んだ次男は、消された。


 この国だけでなく、世界中の歴史を意図的に歪めた張本人。

かつて女帝であった、あの女が知ってしまったからだ。


 恐らく今回のように、あの女は教会を動かした。

国教である教会の在り方が、根幹から崩れるのだから、一言告げれば教会が動くのは、間違いない。

あの女は大きな労力を払う必要もなかったんじゃないだろうか。


 どういう経緯であの女が知ったのか。


 考えて、怒りが湧く。

私のせいだ、とも言えるし、アドライド国王の謀りだった、とも言える。


 立場上、隣国の王子を預かるには、自国の国王の許可が必要となる。

だがかの国王が、まさか女帝の……。


「今朝も私がかけたから、これ以上は過剰だよ」


 今にも魔法でイタチの眠りを妨げようとする王妃が目に入り、考え事を放棄して、思わず止める。


 今は2人きりだから、敬語は使わない。


「ゼストゥウェル王子にできなかった反動かな?

随分イタチに執心だけれど、行き過ぎはこのイタチの為にも良くない」

「それは……」


 図星みたいだ。

でも仕方ないか。


 次男が亡くなってから長らく、唯一となってしまった長男を守る為、この子はあえて無関心でいた。

恐らくこの子の夫であるザルハード国王もそうだ。


 私がこの子と接触を図ろうとしたものの、アドライド国王直々の王命で禁じられてしまった。


 私がイタチ令嬢に呼ばれてここに来れたのは、筆頭公爵家であるリュドガミド家の当主を、やっと息子に引き継げた後だったから。


 今の国王が即位するのと同時に、当主を交代する予定だったが、随分と長くかかってしまった。

私も私の血を引く当主となった息子も、魔人属であったが故に、大きな問題とはならなかったけれど。


 本来ならなるべくして次期当主となり、然るべき時期に問題なく教育を終えたのだから、王家の筆頭公爵家に対する越権行為であったとも言える。

王とはいえ、問題の無い家門の当主権に口を挟む権利はない。

 

 しかし私はリュドガミドという名を与えられる前の経緯により、家門の当主でいる間は、各代の国王の直々の王命を3つ聞き入れねばならないという誓約をこの身に宿していた。


 今代の国王には、当主の交代を30年引き延ばす事、ザルハード国の問題に関わらない事、アリアチェリーナ=グレインビルと接触しない事が直々の王命だった。


 だからあの狩猟祭で初めて、いや、約300年ぶりに再会した、古の王女であり、孤王と1度も接触しなかった。


 できれば古王の力を使って、誘拐事件の後に高熱で苦しむ孤王を助けたかったのに。

あんなにもどかしく感じたのも、この子が次男を喪って苦しむのを放置した時以来だった。

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