表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
464/491

463.歴史、歪んでませんかねえ?〜ゲドグルside

「一応、俺は令嬢をアドライド国からこの国に引っ張り出すのに、令嬢の事を守ると、名にかけて誓ったのは知ってるな。

報告はしておいたはずだ」

「ふーん……グレインビルの妖精の信用を得て、あの国から引っ張り出す為、だったかしら?」


 この女は立ち上がると懐中時計を懐に仕舞いながら、目を細めてベルヌを検分するかのように見やります。


「ねえ、忘れていないわよね?

アドライド国が、貴方達の祖先に対して犯した過ちを」


 立ち上がって、背後のベルヌを正面から見据えて、この女はそう問い質しました。


 私もそこだけは疑問なんですよねえ。

どうしてか()()()()事実と、ねじ曲がっているんですよ。


 当時はまだ産まれていませんでしたから、直接見聞きしたわけではありません。

だだ、私が2百年は生きる魔人属だからこそ、そこに気づいているというだけの事ですがね。


 しかし史実として、確かな映像として残る事象は、全く違う事を事実だと断じているのも確かです。


 歴史、歪んでませんかねえ?


「当たり前だ。

それこそ大昔、ほじくり出されたっつう魔眼の時間を、今仕舞いこんだその魔具使って巻き戻したじゃねえか。

俺達3人の目の前でな。

その上で魔眼に投影魔法をかけて、その魔眼が見た当時の映像を、俺達に見せた」


 そうですねえ、あの時映し出された映像には、一目でジルコの祖父だとわかる男がいました。


 ジルコの祖父の顔には、額を横切る3本傷があって、それを見るまで本人も忘れていたそうです。

昔父親から聞かされただけの話だったようですし、それがかえって信憑性の高い映像だと証明する事になりました。


「あれは俺も両親から聞いてた、俺とジルコの滅びた祖国の英雄達だった。

彼らが現王妃と同じ深い独特の赤髪の男、話に聞いてた当時の侯爵だな。

そいつとシルヴァイト=ルーベンスにそっくりな、当時騎士団長だった奴の祖父の先導でどっかに移動してた。

その次の映像では、狂った大量の魔獣達の群れの中にいて、蹂躙されてったんだ。

あんな凄惨な現場、そうそう見ねえよ。

まるで魔獣集団暴走(スタンピード)の中にいるみてえにな。

今思い出しても胸糞悪いな、クソッ」

「ええ、本当に……あの惨状には胸が痛むわ」


 この女の心痛な面持ちは、しかしどこか軽く感じてしまいます。

恐らくは、ベルヌも。

元は騎士団長を務めていたのですから、それくらいは気づいているでしょう。


「けれど、わかっているでしょう?

いくら私があの魔具を使ったとはいえ、あの映像に手を加えるのは不可能なの。

つまりあの映像は、過去に起きた事実だった。

間違いなくね」

「そんな事は、俺だって知ってる。

それに祖国の最後の王が、アドライド国へと下る親書も確認した。

あの国の禁書庫にゲドの手引きで入って、直接確かめたんだ」

「ええ、そうだったわね」


 心痛な面持ちながらも、この女の瞳には愉悦の色が垣間見えます。

恐らくはこの女の望むシナリオをベルヌの口から聞いているからでしょうね。


「だから合点がいって、アドライド国から離れてお前についたんだ。

俺とジルコも含めた一部の国民は、アドライド国での安全な生活ができた。

だがそれ以外の大半の国民は、アドライド国や諸外国に散ったと見せかけて、秘密裏にザルハード国へ捕虜や移民として売られてたんだからな。

だからこのザルハード国の獣人は、未だにその地位が著しく弱い。

俺達の祖国は、獣人が大半を占める国だったんだからな」


 そう、だからベルヌはあのぬるま湯に浸かりきった狸属の聖女に力を貸していた。

元は同じ国の出身だと知っていたからです。


 かの令嬢をこの国に連れて来たのも、この女に命令されたから、だけではないはず。

見た目より成熟し、達観した彼女だからこそ、この国の獣人の現状を知り、機会さえあれば、この国での獣人属の在り方を変えてくれるかもしれないと、期待していたからでしょう。


 ゼストゥウェル=ザルハード第1王子とも懇意にしている彼女ならば、とね。


「だからまた裏切られないように、あの国をイグドゥラシャ国の属国にするわ。

手を貸してちょうだいね、ベルヌ」


 だから彼女がザルハード国からの流民が多いファムント領で長らく活動していた間、この女の拐って連れて来いとの命令も、この女自身が乗りこんではち合わせしそうになったのも、阻んでいたのです。

恐らくは、ベルヌに従っていたジルコも少なからずそう考えていたはず。


 だから不信を買い、ジルコは魅縛されたのです。


「ジルコ、行きましょう」

「はい」


 陶酔した眼差しのジルコと共に、私達を残して行ってしまいました。


 さて、これからどうやってあの女の邪魔をしてやりましょうかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ