452.美女と転移〜ニーアside
「ニーアさん……それでも、どうか……お願い……」
ガバッとジャガンダ国にあると聞いた、土下座とおぼしきスタイルで、オデコを床につけてうずくまる、ポンコツ聖女。
「そのような無駄な事をする合間に、婚約者とやらに会いに行けるのでは?」
見れば見るほど、ドス黒い感情が生まれていく。
お嬢様に目をかけてもらえるだけ、幸せだと思えと殴りつけたい。
「私が離殿に行くと、コッへ様の身が危険に曝されるのです!
ニーアさんしか頼る人が……」
顔を上げないまま、ボロボロ泣いているのだろう。
床に水滴が落ちていく。
「無駄ですよ。
私の主はお嬢様であり、私の力はお嬢様以外に使いません。
そもそもあなたはお嬢様の体調管理も全てやる、危険からも守ると仰りながら、約束は全て反故にしている」
「それは……」
「諦めるか、自らの手で守るかを選ぶべきです。
口先以外で行動を示さない者には、結局誰も守れないとは思いますが。
それに血を吐く程の努力もせずに、助けられないと泣き言だけは一人前。
それで婚約者が死んだ時、あなたは結局他人を悪者にして、自らを慰めるのでしょうね」
「そんな事!
……そんな……こと、は……」
「私は当初、治癒魔法や回復魔法が全く使えませんでした。
それでも死ぬ気でマスターした」
「それは……ニーアさんが竜人で、魔力量だって……」
「魔力量は確かに多い方でしたよ。
あなたのように」
「……え……」
「ご自分の魔力量もわからないくらい、手加減した練習をされていたのですね。
聖女は貴重で倒れて死んではいけないとでも習いましたか?」
「それは……」
「この教会の獣人差別から考えれば、違いますよね?
死ぬ気でやれ、と言われていた方でしょう。
私は毎日魔力を枯渇させ続けました。
そうすれば、少しずつ魔力を保持する量が増えますから」
「そんな……一歩間違えたら……」
「死ぬでしょうね。
しかしそんな私よりも、体が虚弱すぎてすぐに死に瀕するくせに、グレインビル領の為、ひいてはご家族の為に動くお嬢様の方が、よほど死に近い場所で生きていました。
もちろん、今も。
お嬢様は、動ける内は元気に見せます。
見えるのではなく、そう見せるのです。
あなたはお嬢様と出会ってから、1度でもお体を直接確かめましたか?
その程度の事もせず、大方、今もそのように切羽詰まった状況にあるとは、考えもしなかったのではありませんか」
「……あ」
図星らしい。
ポンコツ聖女は真っ青になって、カタカタと震える。
「そんな主なのですから、早急に、とにかく魔力量を増やして、回復や治癒の魔法を真っ先に覚えようとするのは当然のこと。
私の今の魔力も魔法も、お嬢様の為に研鑽したのに、何故、それ以外を助ける為に、その力を削らねばならないのです?
そもそもあなたは、お嬢様のお陰で婚約者とやらを取り戻してから、どれ程の努力をしたのですか?」
「そ、れは……」
上げた顔をひたりと見つめれば、言葉を詰まらせた。
「もうじきお嬢様は、高熱を出されます。
死に瀕する可能性が高いのに、あなたは私の主を犠牲にしても良いから、自分の惚れた男を救え。
そう言っているのと同義に聞こえます」
「そんな……つもり……」
「あなたは未だに他人を生かす為に最大限の努力をしていない。
無駄な悲壮感で自分の薄汚い精神を誤魔化すのはやめられては?」
更につっこんでいけば、突如ゾワリとした危機感が背中を走る。
本能的にポンコツ聖女に攻撃しかけて……なんとか思い止まった。
メキ、とおろし金から異音がするも、ギリギリで力を抜いた。
「そんなに婚約者が心配なら、婚約者の所で、一緒に死ねばいいんじゃない。
君、不愉快だ。
ニーアは僕の可愛いイタチに、ちゃんと栄養補給をさせてあげて」
不意に、よく知る魔力を纏った、見慣れない姿の女性が、ポンコツ聖女の後ろから発生して、共に消える。
転移か。
白金髪に赤目の絶世の美女には、大き目の三角耳とフワフワした尻尾がついていた。
お嬢様が以前、オムトロライスを作っていた時と同じ耳と尻尾。
「やはりフェネックとやらは、お嬢様にこそ似合う」
うっかりそんな事をぼやきつつ、野菜のすりおろしを再開した。
いつもご覧いただきありがとうございます。
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最近、更新ペースが落ちてしまい、申し訳ないm(_ _)m
忙しいのもあるのですが、これまでの伏線の回収に、過去回を読み返して確認してから書く事もあったりして、いつもより書く時間がかかっております。
さてさて、今回のフェネックですが、『150.食べさせ合いっこ』に登場するので、よろしければ振り返って読んでみて下さい(*^^*)




