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443.あの日の警告と畏怖〜ギディアスside

「やあ、バルトス。

約2週間ぶりだね」


 にこにこ微笑みながら、王宮魔術師団副団長である男のいる、演習場へ会いに来た。


 周りには死屍累々の魔術師達。

機嫌は大層悪いと見える。


「何だ」

「私の側近にならないか?」

「ならない」


 憮然とした面持ちで、息切れ1つなく言い切ると、そのまま場所を移動しようと転移するではないか。

もちろんタイミングを見計らって、彼の転移魔法に滑りこむ。


 言っておくけれど、誰にでもできる事じゃない。

転移魔法は難易度が高く、失敗すれば体が千切れたり、ねじ切れたりする。


 おや、行き着いた先は彼の執務室だったか。


「ついでに私達の弟は仲良くどこに姿をくらませて、何をしているのか話してくれないかな?」

「ついでにうちの弟は既に成人していて、学園卒業から何年にもなるA級冒険者だ。

一々何をしているか把握する必要はない。

お前の弟は知らん。

だがそちらの弟も同じく既に成人していて、学園卒業から何年かになるA級冒険者だ。

臣籍降下して王族籍を抜けてもいるが、管理云々は王家がやる事だろう」


 机に座って書類に目を通し始めるとは……つれなさは平常運転のようだ。


「しかし君の可愛い天使を追いかけて行ったと思うんだ。

無関係ではないと思うんだよ?」

「俺の可愛い天使を、決して譲りたくはないが、仮に1万歩以上譲って、可愛くないが可愛い俺の弟が迎えに行ったとしよう。

だとしても、お前の弟がそれに便乗したかどうかまで、俺が管理する理由にはならない」


 正論だね。

やっぱりつれない男だけど、弟妹はどうあっても可愛いと思っているところも、平常運転らしい。


「そもそも、お前の弟が行き先を告げずに行ったとは思わん。

報告もさせているんだろう」


 質問ではなく、確定事項として話してくる。

やっぱり気づかれていたか。


「それで?

先月あたりから毎週だった側近の勧誘に、毎日なんぞという、迷惑でしかない頻度で来ていたお前が、2週間と間を空けて来たんだ。

イグドゥラシャ国の動向は正確に掴めたのか?」

「お陰様で、それもあって相談に来たんだよ」

「あの国で実権を握る第1王女が消えたか?」


 やはり弟と連絡を取り合っているようだ。

でもそこで第2ではなく、第1王女が出てくるという事は……。


「ザルハード国に現れたのは、第2王女だったはずだけど、どうして第1王女だと思ったんだい?

アリーと何か話してたのかな?」

「さあな」


 書類に目を通し続けるバルトスは、小憎たらしいくらいにポーカーフェイスだ。


 でもこれで私の中の、ある仮説が正しいと確信する。

そしてバルトスがわざわざそう伝えたのは、間違いなくわざと。


「ねえ、例の光る苔から作った薬。

今ならある場所へ届けられると思うんだ」

「それで?」

「婚前に友人との旅を楽しむのも、独身生活最後の思い出になりそうなんだけど、どうかな?」

「楽しんで来い」

「私の友人は、側近にはなっていないバルトス、君だけだよ。

ヒュイルグ国まで赴いた仲だよね、私達」


 ヒラヒラと我関せずとばかりに手を振る男に、忘れてはいないぞ、と言外に伝える。

あの時は彼の要望で、ヒュイルグ国へと転移する羽目になった。

ある男の力添えもあったけど、正直あれは、色々な意味できつかった。


「だから?

俺のメリットは何だ」


 どうやら本当に機嫌が悪いようだ。

一筋縄ではいかない。

そして警戒されてもいるんだろう。

それは恐らく私ではなく、私の身内……だと思いたい。


 私自身は、この男を友だと思っている。

国より大事に、とは立場上できない。

つらいところだし、だからこそ彼が可愛い天使を守る為に警戒するのも、無理はない。


 世間一般的な友情は……諦めている。


「そうすると、ある国との緊張状態も緩和されるし、ある国と全面戦争は避けられる。

君の可愛い天使の身の安全度がこれで上がるよ。

それから……」


 まだ少し迷う。

けれどこの男も含めて、私はこの国の王太子としてグレインビル家そのものを手放すつもりもない。


『ねえ、ギディアス=イェーガ=アドライド。

愚かな同胞(はらから)の血縁者。

明日、くだらない好奇心を行動に移したら、殺すから』


 あの日、彼の天使が初めて見せた顔と、この後に続く警告。

慈愛と見紛う微笑みを浮かべた天使に、畏怖を覚えたあの時間を、決して忘れられないだろう。

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