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438.夢の狭間

「大丈夫、そのまま眠っておいて」


 いつもの声とは違うけど、僕を安心させるのには十分で……だけど、起きてとにかくここを離れてもらわなくちゃ。


 まずはギュッと眉間に力を入れようとしたところで……。


「王妃は眠ってもらったよー」


 ヤミーが軽い口調で飛んでくる気配。

それと同時に、多分元々かかっていた魔法が強くなって、脳内がグワンと揺れる感覚に陥る。


「部屋も広くなったから、ロアンは王妃の寝室で仮眠がてら待機するってー。

ふふふ、アリー可愛い……ぶべっ」

「ヤミー殿?!」


 ベシッという何かを叩き落とす音と、床にベシャッとぶつかる音が僅差だけど、順番に聞こえた。


 あ、揺れが治まったぞ。

それとなくイタチの尖りのある歯で、舌を噛む。

まだ眠らないぞ。


 教会内で闇の精霊発言はしない方が良いからかな。

王子は僕が昔、成り行きで昔つけた愛称で、慌てたように呼んでいる。


「ひ、酷い……」

「ヤミー殿、怪我はないか?

大丈夫か?」


 足音が近寄ってきて、布擦れの音が聞こえたから、多分しゃがんでヤミーを床から救出したのかな。


「羽虫が可愛いイタチに寄って行ったから、落としただけ。

雷で落とさなかっただけ、配慮したよ」

「確かにそうだけど、酷いよぉ。

僕がくっついたら、精神を安定させるのに、クスン」

「僕の抱っこには劣るよ。

ほら、向こう行って」


 しっしっ、と何かを追い払う振動を腕から感じる。

確かにこの慣れ親しんだ腕は僕を安心させるけれど、今はとにかく早く、ここから離れて欲しいんだ。


「失礼します」


 不意に向こうからノック音とニーアの声がして、ドアが開く。


 でも足音は2つだ。

リューイさんは足音がほとんどしないから、違う。


「ジャス、どうだった?」


 やっぱり。

王子がジャスって愛称を口にしたなら、側近のジャスパー=コードだ。


「ニーア殿がいたお陰で、無事見つけられました」

「ええ。

お嬢様から探すよう言いつかりましたから。

彼はついでに拾いました」


 おっと、ついでの拾得物扱いになってるぞ。


「それで?」

「王子は側妃と、キティという聖女はイグドゥラシャ国の王女と同室となりました。

聖女の婚約者であるコッヘル=ネルシスは、相変わらず離殿の一室にいるようです。

聖女や元からこの教会支部にいた神官や聖女見習いの力もあって、当初は持ち直したと聞いています。

ただ、今は再び意識を失っているのを確認しました。

彼は本当に、ただの怪我でしょうか?

それにしては、様子がおかしい。

外傷は治っていましたが、体力の回復も見られず、時折り昏睡しては目覚めるのを繰り返しているようです」


 僕を撫でる手が尋ねれば、そう答えた。

ニーアは僕の侍女だから、黙ってるんだろうけど、あまり意味はなかったような?


 うーん……キティと離れてしまったか。

多分意図的なんだろうな。


「そうか……少しコッヘル=ネルシスと話してこようかな。

聖女の方とは、隙を見つけて話してきたんだ」


 いないと思っていたら、やっぱりしっかり動いてたのか。

でも今の聖女には近づいて欲しくない。


「それに元からここにいた神官や聖女見習い達が、本殿の地下に集められている」

「どういう事だ?

ここに地下など無かったはずだが……」


 地下?

まさか……。


「転移陣があって、どこかの地下に繋がっていたんだ」


 ドクリと心臓が軋む。

自然に体に力が入ってしまう。


「ん?

どうしたの?」


 優しく問いかける声にも、力が抜けない。


 僕は以前……義母様が死ぬ前に、どうしても行きたくて、だけど行けなかった場所があった。


 駄目だ……きっとあの時、僕が、僕達があそこから出た時に、アイツが陣を描き換えてたんだ。

だとしたら……僕が1番許せない方向で、事態が整いつつある。


 目を開けて、今すぐ動きたいのに、やっぱり体の自由が利かない。

ちゃんと伝えたいのに……何とか腕にしがみついて、尻尾を手首のあたりに巻きつけるので、精一杯。


「起きたのか?」

「そうだね。

離れたくないみたいだけど、起きると帰れって言われそうだから、今は……ごめんね」


 頭を優しく撫でられれば、意識が猛スピードで遠のく。

体も疲れているし、何度も重ねがけされた闇属性の魔法だ。

明日目覚められるかも、わからない。

時間がないのに……。


 駄目なんだよ、レイヤード義兄様。


 今は……僕が中途半端に新しくした次代の時代で、新たに古王が覚醒する時、人がここにいちゃ……人ではなくなったアイツは……また……。


『……んで……愛し……』


 ふと、夢の狭間に、懐かしい半身の声が聞こえた気がした。

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