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434.威厳と覇気

「こちらです」


 盗人が側妃に挨拶をしたと思ったら、すぐにその後ろから昨日の声の主の1人が、誰かを連れて現れた。


 褐色の肌に長い黒髪を1つに束ね、焦茶色の瞳をしている。

こちらの世界の女性騎士さんは背が高い人も多い。

黒豹属さんらしいお耳と尻尾がついている。

お顔は美人系。


 なんだ、違うのか。


「ゼストゥウェル王子?!

何故貴殿がこちらへ……」


 エセ教皇が何か言っているけれど、僕は全く興味が起きない。


 チラリと上を見上げれば、王妃はそれとなく黒豹騎士の案内してきた、数ヶ月ぶりに会うどこぞの第1王子を睨んでいる。

ここに来るって、知らなかったのかな?


「まあ、ゼストゥウェル様、ご機嫌よう」


 何か侵入だとか、断りもなくとか、明らかに敵意を滲ませて罵るエセ教皇やエセ神官達はともかく、あの盗人は嬉しそうに挨拶をする。


 珊瑚色の髪に灰色の目をした、可愛らしい印象だけれど、貴族令嬢としてはやや平凡な顔立ちの盗人に、王子は一瞬眉を顰めた。


「ああ、久しぶりだ。

そなたも呼ばれたのか?

ここでは第1王子と呼んで欲しい」

「あら、私はミシェリーヌでかまわないわ」

「互いに名を呼び合う仲ではない。

時にそなたに求婚した私の異母弟はどこに?」


 けれどすぐに王子スマイルを浮かべ、なかなかに砕けた言動を取る盗人を牽制しつつ、問う。


「まあ、王女に対して失礼ですよ、第1王子!」

「全くだ!

そもそも誰に呼ばれればこのように不躾な訪問を……」


 第1王子の言動にエセ教皇や側妃が反応して注目を集めているうちにと、兎のフードを深めに被り、魔眼で視る。

すると盗人からは赤黒い靄が発していて、第1王子に纏わりつかせようとしていた。


 けれど無駄だ。

彼の親指につけた指輪にはヤミーが宿っている。


 ファムント領の洞窟で僕が視たような、魅了の類は効かないよ。


 そのままついでに周囲も観察すれば、なかなかに面白い事になっていた。

やっぱりフェルの言う通り、魔族がいるみたい。


__ぽんぽん。

「キュイ?」


 どうしたのかな?

急に僕の頭を優しくぽんぽんしたのは、後ろに控えていた美人騎士様。


 すぐに魔眼を閉じて見上げれば、困惑したような、それでいて、僕を気遣うようなお顔?


「平気かい?」

「キュイ?」


 何が?

そう思って思わず小首を傾げてしまえば……。


「まあ、何て可愛らしいペットなの!」


 突然矛先がこちらに向いた?!


 顔はなるべく隠したまま、向かってくる声の方向に顔を向ければ、突然ベルヌが更にその後ろから走りこみ、背後から盗人の肩を掴んで止める。


 惜しいな。

そのまま突っこんで来たら、美人騎士が張った聖属性の透明な魔法壁にお顔をぶつけていたかもしれないのに。


 思った通りにいけば、この場で盗人の正体が露呈して、かなりカオスな事態になったかも。


「まあ、何かしら?」

「それ以上は進むな。

そもそも聖騎士達に足止めさせて、俺達を振り切って行くのはどうかと思うぞ、雇い主」

「どういうつもりだ、王女!」


 ベルヌのすぐ後に続いて食ってかかったのは、ピューマな薄茶色のお耳様とお尻尾様をした、ジルコミア=ブディスカ。


 僕は逞しさんと呼んでいる。

だって僕に名前を呼ばれるのが嫌って言うんだもの。


「あら、だってここは獣人のあなた達には厳しい目を向ける、聖フェルメシア教会よ?

聖騎士達にあなた達が質問を受けるのは当然じゃない。

それにマーガレット様からはグレインビル侯爵令嬢と一緒に本日お茶会をしているとお知らせいただいていたの。

ベルヌからの伝言も気になっていたし、体も虚弱なご令嬢なら、会える内に早くお会いしておきたいと思うのは、当然だわ」

「それは……ええ、そう、ですね」


 どうしてかな?

途端に逞しさんの勢いが無くなった?

もしかして……。


 ベルヌが苦虫を潰したようなお顔になっている。

今は魔眼を使わないから確かな事は言えないけど、彼女は多分……。


「グレインビル侯爵令嬢は、ここにはおらぬ。

どうやら茶会はお開きにした方が良さそうだ。

失礼する。

ゼストゥウェル、お前も共に下がるぞ。

護衛騎士はご苦労だった。

行こう」

「「は!」」

「はい」


 おお、カッコイイ!

美人騎士や王子達を従える麗しい王妃……素敵だね!


「勝手な事を……」

「エリザベート?!」


 けれどエセ教皇やまさか再びの王妃を呼び捨てにした側妃が怒りの形相で暴言を吐こうとして……。


「不敬だと知れ!

愚か者!」


 王妃は僕を腕に抱いて立ち上がり、立場ある者特有の、威厳と覇気を纏わせて一喝した。

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