424.宇宙人の概念
「あら、どうして?
私の体調管理を含めて、きちんとお世話する事は、例の王妃殿下と側妃殿下連名の契約書に書かれているわ?」
「ですから、こちらは聖女を世話役につけているではありませんか。
大体、それとこれと何の関係が……」
確かに今は聖女だけが僕についている。
何故か王子もついているけど、彼はノーカンでいいよね。
むしろ聖女は王子のお世話も担っていて、邪魔なんだけど。
契約書を持ち出すと、前回の一件もあってか、エセ教皇は警戒したように、怒りの勢いを無くした。
「あるに決まっていてよ。
聖女にしても、私の家族より治癒魔法は下手くそ。
さらに回復魔法は遥かに劣っていますもの。
いつまでも下手くそな魔法を受けていたら、私の体調が悪化してしまうわ。
1度でも私が大きく体調を崩し、生死の境を彷徨えばこの教会、ああ、もちろん本部も支部も含めて、私の家族によって物理的に潰されるかもしれない。
それは既に報告済みよね?
そうなれば……ふふふ、他国からも糾弾されるのではないかしら?」
「た、他国?」
エセ教皇の眉が寄る。
自国の王家ならともかく、流石に他国までは戦う想定していないのかな。
「何せ私、他国の王侯貴族にこそ繋がりが深いのですもの。
教会が望むような形で、この国が落ち着くのは……未来永劫ないかもしれませんわ」
「お、脅しか?!」
「いいえ、事実しか申し上げていなくてよ。
けれど然るべき誠意を見せていれば……最悪の事態は回避できる……かも?
そちらが誠意を見せるなら、王妃殿下と側妃殿下の両方と、同時にお会いするという条件付きで、お目通りしてもよろしくてよ?」
「なに……同時?
王妃と?!」
僕の話のテンポに目を白黒させ始めちゃった。
畳みかけるなら、今かな。
「あら、よくお考えになって?
完全なる王族側の、それもかなり重要な方がここに訪れるかもしれない。
この機会を設ける事により、得られる利益を」
「……利益」
社会科の教科書的宣教師風の目に、欲が透けて見える。
「ええ。
でもそうでなければ、私が側妃殿下にお会いする事はない。
私が他国の高位貴族令嬢である以上、これは決定事項。
そちらが正しく理解するべきよ」
諭すように微笑めば、彼は無言になる。
きっと頭の中で、欲にまみれた損得勘定を弾いているに違いない。
「…………側妃殿下と……話し合ってから決断致します」
やはり王妃よりも、この教会が重要視するのは側妃か。
色々情勢が垣間見えるね。
「ええ、もちろん。
ただ……本当に私をここに呼び寄せた方とひと月以内に会えないのなら、もう帰国致しましてよ」
その言葉に、片頬がピクッと反応を見せたけど、それを誤魔化すように、慌てて立ち上がる。
「……し、失礼致します」
そそくさと出て行こうとするエセ教皇はともかく、聖騎士は何だか名残惜しそうなお顔で僕を見る。
この人、何してんだろ?
暫し互いに見つめ合ってしまう。
「何をしておる!」
「ハッ、申し訳ありません!」
先に歩く教皇は、聖騎士がついて来ないのに気づいて、腹立たしそうに声を荒げた。
そこでやっと聖騎士が慌てて後を追い、そのまま2人で出て行く。
「惚れられたな」
「私のお顔は美少女だもの。
仕方ないよね」
ずっと無言で控えていたベルヌを振り返れば、とっても呆れたお顔だ。
かと思えば、彼はすぐに眉を顰める。
「ったく、自分で言うな。
それより少し休むんだ。
顔色が悪くなってるぞ」
「…………そうだね。
ちょっと疲れてきちゃった。
それより早く君の雇用主に来るよう、連絡してくれない?」
「……いや、だが……」
僕の言葉に、多分少なからず勝手をしているだろう、熊さんのお顔が曇る。
「あの令息につまらない痕跡を残すなら、さっさと来い。
宇宙人を燃やしちゃうぞ、って言っておいて」
「ウチュウジンて何だ?
隠語か?」
そういえば、この世界に宇宙の概念はなかったよね。
「全然違う。
意味はわからないと思うけど、意図は伝わるよ。
おやすみなさい」
「はぁ……言うだけかよ。
ああ、おやすみ」
立ち上がって、すぐ隣の寝室に向かう。
ベルヌはすれ違いざまに僕の頭を撫でてから、僕の座っていた椅子に腰かける。
これできっと、あの変態ひょろ長さんを駆使してでも、アイツはここに来るはずだ。
そう思いながら寝室に入って、ベッドにダイブ。
そのまま目を閉じた。
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【太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する】
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