422.教育と駒
「何故中断を?!」
「お願いします!
どうかコッへ様を助けて下さい!」
王子と聖女が僕の後をついて、そのままの流れで僕の部屋に押しかけてくる。
「これ以上は無意味だから」
「「そんな?!」」
そう、ニーアの治癒魔法はあの後すぐに中止。
そして何故か静止しようとする全員を無視して、僕はニーアと手を繋いで部屋に戻ってきた。
護衛のベルヌはもちろん、背後にいるよ。
もしこの2人が僕に何かしらするようなら、いつでも割って入れるように。
でもベルヌより先にニーアが抹殺しそう。
密かな冷たい殺意を、繋いだ手から感じる。
「お嬢様」
手をギュッと握ったら、ニーアの関心が僕に移る。
ニコッと微笑めば、殺意もいくらか和らいだね。
良かった。
そういえば聖騎士の2人が、しれっとエセ神官達そっちのけで僕の後をついてこようとしたのはどうしてかな?
もちろんエセ神官達が怒りながら止めてたよ。
「お願いします!
どうかもう1度だけ!
少しずつ治癒されていたじゃないですか!
せめてあの目だけでも!」
「頼む!
コッへは私の大切な友なのだ!」
必死に懇願する2人に、ため息が出る。
まだまだだね。
先は長そうだ。
「それなら聖女だったり、王子で光の精霊王の加護を持っているらしい君達がどうにかすればいいのでは?」
「「それは……」」
冷たく見つめれば、2人はたじろぐ。
「できないはずがないでしょう?
上位神官がどう言おうと、君達はそれなりの立場と、権力がある。
少なくとも他国の貴族令嬢である私ができて、君達ができない理由はない。
それにニーアは元々攻撃魔法が得意で、治癒魔法は不得意だもの。
あれ以上魔力を消費させて、もしかして私の身を危うくさせたい?
ニーアはただの侍女じゃない。
護衛も兼ねた侍女だって、説明してあったけど?
ニーアとベルヌがいるからこそ、私はここに来たのに、今からでも帰ろうか?」
「「それは……」」
揃って言い淀むし、青ざめてるし、さっきから仲が良いね。
ひとまずこの国を訪れる前に伝えた事を思い出したようで何よりだけど、他力本願の癖ってなかなか抜けないみたいで、嫌になる。
本当なら一々付き合わないんだけど……まあ面倒事は未来への投資だと思って我慢、我慢。
「教会だからこそ、治癒に特化した魔法を使える者がいるはずだよ。
聖女である君を筆頭に。
頼めば極秘にでも手を貸してくれるのではないの?
そんなにこの教会の人達は冷たい性格の人ばかりなの?
だとしたら、ふふ……がっかりしちゃうな」
「いえ……ごめんなさい」
まずは聖女を冷ややかに追撃。
ガクッと項垂れる。
「王族としての権限も、さっきの神官や聖騎士達を見る限り、それなりにあるよね?
何故、神官達に命令しないの?
楽な方に流される性格は、そろそろ慎む癖をつけるべきでは?」
「ぅ……申し訳ない」
聖女と同じく項垂れた。
「現状、あらゆる危険を孕んでこの教会に留まる私に、できる事すらせずに追い縋る意味が全く理解できない。
するつもりもないけど。
私がここにいるだけでこの国の人達を脅威に曝している自覚があるけれど、君達は違うみたい。
立場のある君達は、まだ自分自身の言動を正当化している段階なのかな。
それなら大事なものを失って初めて気づくのか、そうであってもその性根は変わらないのか……君達はどちらかな?」
それが今の君達を形成する人か、物か、地位かはわからないけれど。
ハッとしたように僕を見る2人を、更に畳みかける。
「ここにいて、君達は何をするの?
それで君達が大事だと主張する、コッヘル=ネルシスは回復するって本気で考えている?
少なくとも彼に関してだけでいうのなら、少なからずの猶予ができたのに、無駄にするのかな?」
そう、あくまで猶予だ。
その猶予をどう使うのかは、君達次第。
「行こう!」
「はい!」
そう言って2人共、バタバタと出て行く。
キティは1度、ペコリと頭を下げてた。
「ニーア、お茶飲みたい」
「すぐにご用意致します」
そうして僕とベルヌだけになる。
「2人共を教育してんのは、何でだ?
それに……猶予、か」
僕がソファに座って一息吐いた時、ずっと黙って僕を見ていたベルヌがそう告げた。
「さあ?」
僕はクスリと微笑むに止める。
盤の駒は、まだ揃わない。