420.再会
「どうぞ、こちらへ」
エセ教皇とエセ神官に初対峙してから、2晩明けて2日目の昼間。
ちょうどお昼ご飯を食べた後、例の中年エセ神官の男女2人組に離殿へと案内される。
僕を睨む事を忘れないエセ達を、貴族らしいお顔で真っ直ぐ見つめ返してやれば、怯んだように視線を外して先を歩き始めた。
そんな僕達に、何かあった事を知っていたのか、今悟ったのか。
彼らのすぐ後ろを、それとなく僕を庇うようにして王子と、今日も頭をベールで覆う聖女は歩く。
僕の隣にはできる専属侍女、すぐ後ろには熊耳の護衛。
僕のお世話係のガリガリ体型で栗毛の神官は、エセ達と会った後から見かけなくなった。
担当を外されたみたい。
そしてその後ろには、いかにもな格好の、聖騎士らしき2人。
この教会の聖騎士は、神官や聖女と違って人属しかなれないらしいよ。
2日前は教会の中まではエセ達についてなかったんだけど、今日は護衛っぽくついてくる。
それに道すがら、見張りっぽく配置されてる聖騎士もいるね。
僕を警戒してるのかな?
やがて教会のある一室に、僕達は通された。
ちなみにこの教会は、ザルハード国の王都から言えば、辺境の地にある。
けれど一応はそれなりの敷地の広さがあって、本殿と2つの離殿があるんだ。
本殿は質素な侯爵邸、離殿は質素な伯爵邸と子爵邸くらいの大きさかな。
掃除は離殿になるほど、完全に行き届いていない。
それに人目に触れない所は、窓ガラスが割れてたりする。
ガラスって最近になってヒュイルグ国が大量生産を始めたんだけど、この世界ではまだ貴重なんだ。
でも流石、国教を布教する教会だけあって、辺境の教会でも綺麗なステンドグラスが窓にはまっている……いや、いたって言うべきか。
割れたままだもの。
ここに来てすぐの頃、僕はあちこち探検と称してイタチ姿で見てまわってる。
イタチタオルなスタイルでね。
夜中にこっそりやろうとして、僕のできる専属侍女に捕まっちゃったんだ。
だから人目に触れない所の状態も、知っているよ。
「「コッへ(様)!」」
1番奥に設置されたベッドには、やつれた少年が、ぐったりとした様子で横たわっていた。
僕の記憶とは随分様変わりしている。
「……おう、じ?
……ティキー?」
第3王子と聖女の騒々しい声に、起こされたみたい。
コッへと愛称を呼ばれた少年は、かすれた声を微かに発して、薄っすらと目を開けた。
僕も近くへ行く。
虚ろな瞳に、白濁?
もしかして、視力を失っている?
「こんな……何故だ……」
「すぐに回復魔法を!」
ショックを受けて呆然とベッド横にへたりこむのは王子。
ティキーはさっと骨の浮いた手を取って、回復魔法をかけようとした。
__パチン。
けれどティキーの手は、魔法を発動する事なく女性のエセ神官に叩かれた。
「何をなさ……」
「聖女が神官の許可なく癒やしの力を使おうなどと。
支部での教育はどうなっているのです」
「教育もさる事ながら、獣人だから教えを守れないのでは?」
「…………ぁ……」
抗議の声に被せるように、侮蔑の眼差しと共に言い捨てる。
やっぱり男女の順で言葉を発するのは、決まりなのかな?
ティキーはその眼差しに、怯えた表情でうつむいた。
『え、えっと……いくらでも触って頂いてかまいませんが……人属のお嬢様には汚らわしいのでは……』
そういえば彼女の、とっても魅力的な狸のお耳様とお尻尾様を初対面で見た時、そんな事を言ってたっけ。
きっと長年、こうやって貶められてきたんだろうな。
ザルハード国には獣人への偏見がある。
特に教会では人属優位な考え方が根強いんだ。
「ニーア」
「……………………はい」
ものっ凄く嫌そうなお返事だったけれど、ものっ凄く面倒臭そうにして、ニーアがまずは白濁した目に手をかざす。
「グレインビル嬢!
何を勝手にされているのですか!」
「彼の生家は教会へのお布施が滞っているのに!
聖騎士!」
やっぱり男女の順で騒がしく聖騎士を呼ぶと、ドアの近くに控えていた2人が大股で来る。
「おっと、嬢ちゃんに手を出すのは、お前らのためにも止めとけ」
けれどベルヌがスッと立ちはだかり、忠告した。
そうだよ、ベルヌの言葉を守らないと、僕の義兄様が作った魔具がビリビリ攻撃しちゃうもの。
もちろん前みたいな致死レベルの威力は、もうない……多分。