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419.理〜ヘルトside

「それが私に課せられた理の1つなんだよ。

ただ、それでもこうしてできる範囲で君達に伝えに来たのは……そうだな」


 嫉妬に揺れる父心を胸の内に隠し、ポーカーフェイスで様子を窺っていれば、何かを考えるように彼女は1度言葉を切ってから、続けた。


「まだあまりにも幼かったあの子に、大きな責任を背負わせた大人の1人としての、私なりの贖罪だ」


 そう言った彼女は、自らの罪とやらと向き合い尽くしたかのように、穏やかな顔をしていた。

あらゆる葛藤を経て、それでも自らが選択した何かに後悔はないのだろう。


 意志をもって罪を犯し、生涯向き合い続けると覚悟した者の顔とでも言うべきか。


「せめて僕達の内、誰か1人でも連れて行く事はできないかな?」


 可愛い次男はやはり、妹の傍に駆けつけたいようだ。

しかしいつものようにそれを自分に指定しないのは、自らの実力が私達の中では劣ると認めているからだろう。


 そしてこれまでに無かった妹の行動から、本能的にこれからあの子の身辺で起こるかもしれない不穏な何かしらを感じ取り、危険視している。


「それはできない。

場合によっては、その場にいる者達全員が邪魔になる。

どれだけ実力があったとしても、例外はない」

「それは俺の天使が命の危険に曝される可能性があるという事か?」


 可愛い長男もやはり同じように感じて、妹を未だ追いかけずにいるらしい。

私もまた、同じだ。


 数あるムササビ不祥事案件的な偶発的事故なら、事後承諾もあった。

ちなみにタマシロ君と命名された魔具でのムササビ変身は未だに認めていない。

あと10年くらいは認めたくない。


 それはともかく、こんな風に計画的な事後承諾は初めてだ。

間違いなく自分を追ってくるなという、天使的強い意志を感じさせる。


 だから互いにあの子を追いかけるのを牽制しているのだ。

いつまで待っていられるかは、わからないが。


 そして私の中でふと、ある結論に至る。


「それは違う。

もちろんあの虚弱体質だから、体調的な命の危機は否定できないけれどね。

むしろ危険に曝されるのは、そこに居合わせる者達だよ。

私やあの子が危惧していた事が起こった時、無事でいられるのは、あの子も含めてごく一部の者だけになるからね。

他の誰かを助けるには、今のあの子はあらゆる意味で弱すぎるんだ。

だから今回、最低限だけでも助けられるようにする為に私を呼び、単独で動いているんだろう」

「ふむ、ここに来た真の目的は、私達に可愛い天使の元へ行くなと釘を刺す為か」


 彼女の言葉から、やはりと結論を口にすれば、途端に苦い笑みを浮かべた。


「その通りだよ、侯爵。

私の名にかけて誓う。

必ずアリアチェリーナ=グレインビルを、あの子の愛する君達の元へ連れて帰ると誓う」

「それを信じろと?

そもそも、それならあなたでも同じでは?」


 真意は疑うべくもないが、可愛い長男も己の葛藤を処理できずにいるな。

一応の経緯は払っていても、口調と表情は不服だと告げている。

 

「私とあの子はある意味では同胞(はらから)だ。

ああ、だからといって、あの子が魔人属という事じゃないよ」


 一瞬ハッとした顔になった元王子に向かって、思わずだろう。

彼女は笑みを溢す。


「あの子はれっきとした人属だ。

きっと色々な奇跡が重なって、今を生き延び続けただけ……ん、けほっ」


 彼女は話の途中、少しむせ、紅茶を一口含み、続ける。


「それから信じるのは、私ではないよ。

君達が自身の家族であるアリアチェリーナ=グレインビルを信じられるかどうかだ。

少なくともあの子は自分に何かあった時、君達が悲しむ事を、誰よりも理解し、自覚しているように思うけど?

そしてもし君達の1人でも、自分に関わる事で傷つくなり、あまつさえ命を落とせば、きっとこの世界は崩壊する」

「崩壊とは?

アリー嬢は魔力もない。

どうやって?」


 天使な娘は随分と壮大な話の主になっているな。

しかしあの子なら、それが可能にすら感じられるのは何故だろうか。

 

「あの子はそういう存在だよ。

でもこれ以上は……ゴホッ」


 一瞬、顔を顰め、懐からハンカチを取り出して口元に当て、湿った咳をした。


「……やはり言えないようだ」


 そう言って唇を拭い、再び仕舞う。

一瞬見えたハンカチについた赤い染みに、彼女を縛る理が窺えた。


 そうして他に幾つかの約束事をして、リュドガミド前公爵は可愛い天使の元へ旅立った。

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