414.イエスかノー
「嬢ちゃん、聞いていいか」
あれからすぐにニーアが、次いでベルヌが戻ってきて、フェルはすぐにいなくなった。
いくぶん体が軽くなり、ニーアの淹れ直した紅茶を一口飲んでほっと息を吐いた僕に、ベルヌがそう切り出す。
「何?」
部屋は人払いしてあるし、僕の護衛も兼任するできる専属侍女、ニーアがドアの近くに控えているからね。
せっかくの高級茶葉だもの。
一緒に紅茶を楽しもうと、ベルヌに護衛は一旦休憩するよう伝えて、向かいのソファに座ってもらってるよ。
「嬢ちゃんは何でここに……まあ連中は本当なら、王都の教会本部に誘いたかったんだろうが、何で教会に足止めされてんのか、気づいてんのか?」
「そういうベルヌはどうなの?
そもそもベルヌは命令でここにいるのか、脅されてここにいるのか、自主的にここにいるのか、どれだろう。
それとも、そのどれもかな。
そろそろ話す気になった?」
僕の些細な反応も見逃すまいとしているのか、僕をひたと見つめるベルヌを、僕も正面から見据える。
ややもして、ため息を吐きながら、ガシガシと頭を掻いた。
「はぁ〜、ったく、どこまで気づいてんのか、聞くのが怖えな。
嬢ちゃんはあの教皇や上位神官やらを見て、どう思った?」
「普通の人、相手にするのも面倒、もう帰りたい」
「ブハッ……まあ、その通りだろう。
だが悪いな。
まだ帰すわけにはいかねえんだ」
「それは何故?」
「こっちも人質を取られてる」
「ひょろ長さんと利害関係が不一致になったかな?」
「はぁ……まあ、そんなとこだ。
ジルコを見捨てられねえ。
だが、あいつは今の場所から動けないでいる」
自嘲しながらため息を吐きいた彼の言うジルコとは、僕が逞しさんと呼ぶピューマ属の女性だよ。
本名はジルコミア=ブディスカ。
僕の大好きな狼属の、シルヴァイト=ルーベンス
近衛騎士団団長を心から憎んでいる。
でもそれは彼女が元近衛騎士団副団長で、その時に何かがあったからじゃないよ。
彼らの祖父母世代からきた縁故。
それも、あの盗人が歪めた歴史が起因して起こった事。
それを確実に知っている僕からすれば、逞しさんの逆恨みどころか、とんだお門違い。
道を歩いてたら、ヤンキーにぶつかってもないのに因縁をつけられたに等しい、由々しき事態だ。
でもそこにはまだ触れられない。
一応その為の下準備はもうしてあるよ。
フェルに狸聖女って呼ばれてたキティが、本当に古王として目覚めるなら、その為にもしておいて損はない下準備にも繋がるから、一石二鳥。
まあ、ある人を呼び出すだけなんだけどね。
「だから私に確かめたいの?
でも私が何かを話す事はないってわかってるんでしょう?」
今のところは、だけど。
「ああ、わかってる。
どのみちアドライド国の侯爵令嬢の言葉を、アイツが素直に聞くとは思ってねえ」
「ふーん……だからわざとタイミングをみて私達を会わせて、生まれるかもしれない何らかの副産物に期待してる?」
__チャ。
んん?!
ニーアが、小さな金属音と共に、前世の忍者が持ってそうなクナイっぽい武器構えたよ?!
「待て待て、最後まで聞けって」
でもベルヌはそれを予想してたのか、余裕の態度で両手を上げて降参のポーズを取った。
ニーアもそれがわかってて、音をわざと消さなかったんだよね?!
殺気がダダ漏れしてる気がしなくもないけど、わざとでしょ?!
まだいつでも投げれそうだけど、投げるつもりはないんだよね、ね?!
「それで?」
とにかく早く話をしてしまおうと先を促す。
もちろんポーカーフェイスは崩さないけど、せっかく手に入れた、熊さんのお耳様とお尻尾様を死守せねばと、内心は焦りまくりだ。
「俺は嬢ちゃんの言葉なら信じていいって確信してる。
だからこれだけは教えてくれ。
何を知ってるのか、どうして知ってるのかは今はいい。
イエスかノーだけでいいんだ。
ルーベンスとアドライド国の王妃の血筋の奴らを、俺達が恨む事は、筋違いってやつなんだな?」
ベルヌの言葉に、僕は静かに頷いた。
むしろ彼らは、今は地図からも、歴史からも消えた、彼らの母国の民を救う為に動いた人達だから。