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412.古王と孤王と歯車と

「アリー、どうしてこんな所へ来たの?」


 僕をお膝に乗せたフェルが、僕をバックハグしながら尋ねる。

心なしか声が落ちこんでいる?


「フェルはもう、気づいているでしょう?」

「…………あの狸聖女の事ね」


 少し間があってから、そう答える。


「そうだよ。

まさかこんな時に()()()()()まれているとは思わなかったけど」


 そう、僕がここへ来た本当の目的の1つは、ティキーだ。

初対面の時に感じた、本能的な違和感の正体には、早々に辿り着いていた。


 どうして、とか、何故か、なんてわからない。

あくまで古王を()()として嗅ぎ分ける何か、としか言えない。


「まだ出来上がっていないわ。

今のうちに始末しても、いいと思うの」


 んん?

何だか急にフェルが物騒?!


 思わず振り向けば……あ、顔が悪い顔になってる。


 精霊さんは基本、愛情を抱く者への思い入れに関しては、深くて激しい気性なんだ。

フェルは光の精霊王なんて崇め奉られてるけど、その中でも実は、なかなかに激しい方だ。


「えーっと、駄目だよ?

古王は理由も無く生まれたりしないからね?

それに、僕は古王にして、孤王だもの。

生まれたなら、どう育つか見届けないといけない。

それに僕が仕掛けた転換の歯車が、そろそろ……ううん、やっと?

動く時期になったんだと思うんだ。

歪んだ歴史の片鱗が、時々顔を出しているから」


 すると綺麗なお顔が、とってもブスッとしてしまう。

美人がそんなお顔になっても、可愛らしいだけなんだよ、フェル。


 思わず苦笑しながら、両手ほっぺたを包む。


「アリーはもう、本来の役目を終えたんでしょう。

それにあの時アリーを裏切った女こそが、古王だったじゃない。

だったらもう、私達精霊族は古王なんて認めない。

それにあの狸聖女がもし、古王として目覚めるなら、その時にもしアリーが手助けするのなら今度こそ……」

「フェル、あの時の事は僕がこの世界の事象として生じる前に、僕自身が決めた事だったんだ。

僕はアリアチェリーナになる前に、本来なら、どうなって死んでいく予定か、全て()()()()()()()

もちろん生き残る為に手を尽くしたから、僕は義母様に拾われて、アリアチェリーナになれたよ。

けれどそれは結果論。

本来なら、ほぼほぼ死ぬってこの世界の()()()に宣言されていたんだ」

「今だって……いいえ、もうずっと、死にかけているじゃない」


 もう、急に泣きそうな顔になるんだから。


「それでも僕は生きてる。

フェルや、他の皆がそれぞれ僕を生かそうと行動してくれたから、小さな偶然と奇跡が重なって、生きてるんだよ」


 あの時、霧の神殿で亡くなっていった戦士達、1人1人の力も、想いもあった。


「だったら……」

「だから、だよ。

僕はこの世界を継続させ、転換させる為に生まれた孤王だ。

何度でも言うけど、初めからそれは決まっていた。

それこそが約束だった。

僕は結局この世界を継続させられたし、転換の歯車を世界のあちこちに組みこんだ。

けれど同時に、歪みを作る一助にもなった。

そのツケが今、僕のかつての血縁者によって、もたらされているんだ」


 あの女__ミシェリーヌ=イグドゥラシャ第2王女と名乗る、あの盗人は、僕の()()()の血縁者だ。


 もう1人のかつての血縁者と共に、歴史を歪めた張本人。


「もう、いいじゃない。

あの時アリーはまだ産まれて1年も経っていない、赤子だった。

あの女とその配がアリーを生贄にして、保身に走ったりしなければ、今頃アリーは常に死がつき纏うような体にだって、なっていなかったわ」


 そう言って、フェルが今度は、正面から抱きしめにくる。


 まずい、豊満なお胸に圧死と窒息死のダブルパンチを再び仕掛けられる。


 思わずうつむいて、空気を確保する。


「うん、その通りだと思うよ。

本来なら、僕はもうこの世界がどうなってももう関係ない。

僕が創造主と交わした約束は、あの霧の神殿の結界魔法が解除された時点で、もう終わっている」

「だったら……」

「それでもね、フェル。

この世界には僕を愛してくれて、僕が心から愛する家族がいる。

フェル達だっているんだ」


 もう止めようと言いそうなフェルの言葉を遮って、僕は続けた。

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