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406.聖なるご神体

「え?!

それは駄目!

お耳様とお尻尾様は大事!」

「そんな……こんなもの、コッへ様の無事と引き換えになるなら……いくらでも差し出すのに……ぐすっ」


 嘘、差し出すって言ってる?!

僕の中の本能的引っかかりは一旦霧散する。

聖女が鼻をすすってるけど、それどころじゃないぞ?!


「え、本当?!

触りたい放題プラン?!」

「お嬢様……」


 喜びも束の間、ニーアがそれとなく間に入るけど、僕の瞬間沸騰した興奮は治まらない!


「だって狸のお耳と尻尾は触った事ないもの!」


 そう、よく考えたらこれまでに狸属と出会った事は、数える程しかない。

触れ合う機会はもっと無かったんだ!


「え、えっと……いくらでも触って頂いてかまいませんが……人属のお嬢様には汚らわしいのでは……」

「何で?!

聖なるご神体にも等しい尊さだよ?!

いいの?!

いっぱい触るよ?!」

「え、ええ……それは……もちろん……では、お越し……」

「条件飲むなら、行く!

今から行く?

あ、ベルヌは私の誘拐犯辞めたんだよね?!

護衛だよね?!」

「いや、まあ、そうだけどよ……」


 突然のターゲット・ロックオンだったからかな。

たじろぐ元誘拐犯。


「じゃあベルヌのも!」


 義父様には、誘拐犯のは触らないってお約束してたんだ。

ちゃんと覚えてた僕って、良い子だよね!


「は?!

何で価値観が獣人の耳と尻尾に極ぶりしてんだ?!」

「何言ってるの?!

君達のそのお耳様とお尻尾様は天が与えたご神体だよ?!

もっと自信持ちなよ!

そうだ!」


 ある事を思い出して、収納魔ポケット(マジックポケット)を漁る。


「これこれ、はい!

私のお手製の櫛!

ベルヌはこれでー、ティキーのは逞しさん用のでいっか!」

「何で専用っぽいの作って用意してんだよ?!

一応嬢ちゃんの国じゃ、俺達は指名手配中の誘拐犯だぞ?!

特にジルコミアは、嬢ちゃんにキツく当たる事しかしてねえぞ?!

俺が言うのもなんだが、危機感ちゃんと持て?!」

「え、何言ってるの?

それとこれは別物って、世界の常識だよ?」

「ドン引きした顔で、意味のわかんねえ事言うなよ。

何かが無駄に傷つくだろう」

「ま、いいや。

てことで、教会に行けばいいの?」

「え、ええ……え、本当に?」

「いいよ。

条件さえクリアするならね」

「条件って何だよ?」


 突然の僕の乗り気に、ティキーが戸惑う。


 ベルヌは怪訝そうな顔になってる。


「それはこっちで直接交渉するよ」

「は、はい!

お願いします!」

「いや、私の意見は……」


 そうだった。

すっかりこの第3王子の存在感が消えてた。

横槍入れてくれなきゃこのまま彼を忘れるところだったよ。


「役に立たない意見は必要?」

「それは……すまない……」


 べコリと頭を下げ、王子はそのまま項垂れる。


「君は自分の母親を引っ張り出す役割をしてくれれば、それでいいもよ」

「……母上は私の言う事など……」


 主張するだけして、交渉すら自分からしないとか、もう無視でいいかな。


 ご神体は残念だけど。


「はぁ……あのさ、いい加減にしたらどう?

君が本気になれないなら、その友人は死ぬんでしょう?

わかってるだろうけど、私は正直どっちでもいい。

そもそも助ける理由もない破落戸その2だもの。

むしろ事ある毎に私を平民だと勘違いして、無駄に絡んで、無駄に危害を与えられそうになった事しかないし」


 何かを言おうと立ち上がりかけたティキーを、ベルヌが制する。


「でも一応、ザルハード国の王子として生きてきたんじゃないの?

だったら自分の従者1人くらい、本気で守るべきでは?

死ぬ気でどうにかしようともせずに、結局理由をつけて逃げてるだけじゃないかな」

「それは……」

「どちらにしても、君が母親を引っ張りだせないなら、この話はここまで。

少なくともそうするかしないかで、私の安全性が大きく変わる」

「お、お願いします!

どうか……」

「君もいい加減にしなよ」

「……あ……」


 ひたりと垂れた目を見据えて、貴族らしく冷たく言い放てば、ティキーは固まってしまった。

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