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39.競技場から今まで~ゼストゥウェルside1

「あの眼は····」


 大会の決勝で私は4年生のレイヤード=グレインビルと対峙しようとしていたが、背後でふわふわと漂っていた少年の姿をした精霊殿の呟きを耳にして、振り返って彼の視線のその先を追う。


 そうして白銀髪に紫暗の目をした小さな可愛らしい少女がこちらを向いて驚いたように目を見開いて座っているのを見つけた。


 あれ、あの目光っていないか?

それに、精霊殿を見ている?!


 私は自分の行動がこの後どんな事態を招くかなど考えもせず、条件反射のように風を纏って保護者席に躍り出た。


 瞬間、目の前から少女が消えた?!


 思わず一歩踏み出そうとして、足が地面に凍り付けになっているのに驚く。


 視界の端に映った少女は父親らしき長身の男に抱き上げられ、距離を取られている。

少女は父親の首にしがみついている。


 そんな彼女を改めてちゃんと見れば、少女は魔力を全く纏っていない。

そんな人間がいるのかと何度目かの驚きを感じたものの、そういえば魔術師美形一家とうちの国にまで名声を轟かせるグレインビル家の幼い養女は魔力を全く持っていないと嘘のような話を聞いた事がある。

彼女がそうなのか。


 それからは少女の父親らしき人物の首にしがみついたまま、私がどう取り繕おうとしても怯えた様子しか見せずにこちらを全く見ようともしてくれなかった。

しかし心から私に怯えているような気にはならないんだが····。

2人の保護者は私を全く相手にもしないし、そういえば試合中だったのを失念していたな。


「ねぇ、君。

さっさと競技場に戻りなよ」


 突然背後に殺気を感じ、瞬間足元の氷が弾けた。


「アリーは目が腐るから、見なくていいよ」


 突然の王子の私に対する失礼な言葉と殺気が再びなげかけられ、思わず振り返る。

先ほど対峙していたグレインビルだが、そうか、グレインビルだ。

この子の義兄の1人だったのか。


 その後は思い出してもぞっとする。


 突然体が痺れたかと思えば人生初の首根っこを捕まれて競技場に転がされるわ、試合開始数秒で突然の雷鳴と共に落雷を受けて倒されるわ、恐ろしい程に容赦がなかった。


 医務室で目を覚ました時には思い出して不甲斐なさに赤面した。

さすが音に聞こえしグレインビル一家と感服するしかない。

そして彼らの養女という逆鱗に不用意に触れたばかりか、隣国の王子としても留学中の学生としても礼に欠いた言動にベッドの上で見悶えた。


 ふと視線を感じて顔を上げれば、青銀の髪と目の護衛が無表情に見下ろしていた。

見られていた事に再び身悶えた。


 目を覚ました時はいなかったよな?!


 彼の名はリューイといい、家名はわからない。

元傭兵だが当時の騎士団長に腕を買われて騎士団入りし、私が5才の時に専属護衛として抜擢した。

当時たった1人の同母の弟を目の前で刺客に殺され、あわやという時彼に助けられた。

彼が記憶喪失である事や親類縁者も後ろ楯もなく、怪しむ者もいたが私は気にも留めなかった。

とにかく強い者を求めていたのも選んだ理由で、私の魔法と剣の師ともなったが出会った時からこれまでずっと20才前後の見目麗しい容姿は変わっておらず、獣人であるとしかわからない。


 そして学生寮に戻って1人で着替えている時に、左手の小指にはめていた指輪が何の前ぶれもなく抜けた。

決して抜けるはずのない、精霊と繋がっている証の指輪が····。


 そういえばグレインビルに競技場へ連れ戻されてから彼の姿を1度も見ていない!

すぐに転がった指輪を拾い上げる。


「精霊殿!

姿を見せてくれ!」


 指輪を握りしめて思わず叫ぶが、現れない。

いつだ?!

いつからいなくなった?!


「精霊殿?!」

「····ゼス、ト····」


 か細い、今にも欠き消えそうな黒い靄が指輪を握る拳の上に現れた。

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