表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
333/491

332.酵素ジュース商品化問題

「それで、この弾ける果実水とお水の正体は何なの?」


 ニーアのセットした物を全てお腹に収納させたジェン様がそう口火を切った。


 スーパーモデルの甘味でお腹を満たした後の満足そうなお顔は可愛らしいね。


「まずこの果実水をお伝えする前に、うちの邸の柔らかパンはご存知?」

「もちろん!

初めて食べた時はこんなふかふかなパンがあるなんてってびっくりしたよ」


 ウィンスさんのお耳がぴこぴこしてる!

そのお耳様、つんつんしたいけど今は我慢だ!


「しかし具体的な方法は秘密なのだとギディアス殿とルドルフ殿が言っていたぞ?

城の料理人が柔らかパンの元という物を譲ってもらって使っていると聞いたが、時々管理に失敗して新たに頼むのだろう?

元も持ち出しできないよう城のパン職人の更に一部にだけしか触れる許可を出していないと聞いた」


 ゼストゥウェル王子の言う通り。


 王太子にめちゃくちゃしつこく頼まれたバルトス義兄様にお願いされてうちの料理長と相談した結果、折衷案を出したんだ。


 もちろん僕は家族のお願いは最大限きくからね。

いくら料理人さん達に秘匿をお願いされても教えるだけなんだしと思ってたんだけど、さすが料理長さん。


 料理人さん達の中でもお耳と尻尾のついた獣人組が目をうるうるさせてお願いしてきちゃったんだよ。

いくらお顔が厳つくて筋骨隆々でも、お耳様とお尻尾様があると可愛く見える····不思議的なやつだよね。


「従来のふくらしの実を粉にしたものを混ぜて焼いたパンよりずっと柔らかいし、甘いんだよね。

けど確かグレインビルの料理人の中でも秘匿事項になってて、製法は厳重に守られてるんでしょ?

アリーが教えていいか聞いたら、その時だけは料理人達が猛反発したんじゃなかったかな」

「う····まあ、どうしてか料理長さん達はパンには拘りがあるみたいだけど····」


 そう、まさにこの世界のパンはあっちの世界でも類を見ないほど発展途上的。


 基本はさっき従兄様が言ってたようにふくらしの実って呼ばれてる落花生みたいな種を粉砕して小麦に混ぜて使うんだ。


 もちろんあっちの世界にはない実だよ。


 これがこの世界ではあっちの世界のベーキングパウダーみたいな存在なんだ。


 ベーキングパウダーって、この世界で作るのは技術的にかなり難しいはずでね。

なのにケーキなんかのお菓子は綺麗に膨らんでるから何でだろうって思ってたら、そういう実があるんだもの。


 こっちとあっちの世界の常識って時々面白い所で差異があるよね。


 まあそんなわけで天然酵母っていう概念がそもそもないみたい。

でも発酵させて醸造するお酒はあるんだから、きっと気づいていないだけなんだ。


 それであの時、バルトス義兄様と主にお耳と尻尾のついた料理人さん達の板ばさみとなった僕は、小麦と酵母と塩を混ぜた元種を渡す事を思いついた。


 種を絶やさなないように都度増やしながら使ってもらう製法でお互いに手を打ってもらったんだ。

いわゆる注ぎ足し製法だね。


 ちなみにベーキングパウダーでパンを作った事のある人ならわかるだろうけど、ふくらしの実で作ると膨らみが甘いし、ふわふわ感が足りないんだ。


 でもこの近隣諸国の主食はパスタ麺かパンのどちらか。

だからそういう意味でもパンを専門に作る料理人は料理人の中でも優遇されて特別な地位にあったりする。


 初めて料理長さんに酵母を使ったパンを提案した時に怒られたのは、そういう背景もあったからなんだと思う。


 でも僕が時々試食会をしてたからかな?


 ここにいるウィンスさんも含めてグレインビル領のパンの製法を知りたがる人が思いのほか多くなってきて、うちの料理人さん達とずっと調整してきたんだ。


 主に彼らの気持ち的な面で。


 うちの料理人さん達はあちこちを転々としてきた人達だし、グレインビル領に辿り着くまでには色々あったみたいだから、無理矢理言うこと聞かせるのはしたくなかった。


 これが従兄様達にすぐに教えなかった理由の1つ。

何せ酵素ジュースって、酵母を作ってる時にできる液体を飲むんだもの。


「でもそのパンの話をどうして今するの?」


 ジェン様の疑問はごもっともだよね。


「この果実水が、グレインビル邸のパンの秘密なんです」

「「「「「ええ?!」」」」」


 皆見事に揃ったね。


「この果実水はいわゆる発酵食品です。

だからうちの料理人さん達の反対よりも、実はそちらの方が大きな問題かなと」

「もしかして品質管理かい?」

「さすがですね、カイヤさん。

その通りです。

完全に発酵させてから常温でどこまで日持ちするかは環境に左右され過ぎて予測できませんし、状態保存の魔法が使えません」


 なぜなら状態保存の魔法をかけると発酵しなくなってしまうから、あくまで自然な発酵を待たないといけない。


 しかも発酵食品と状態保存の魔法の相性が悪いらしくて、どういう訳か発酵した後にその魔法をかけると味が酸っぱくなっちゃうんだよ。


 なんでだろうね?

魔法の不思議ってやつかな?


 それもあってなのかはわからないけど、便利な魔法を使えないパン文化の発展はあちらの世界と比べるととっても遅いんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ