318.絶妙にあざと可愛い従兄様
「でもどうして私なの?」
確かに第1王子と面識はあるよ。
けど師匠呼びされて会う頻度が多いのはレイヤード義兄様だ。
僕が虚弱で領からあまり出られないのは広く知られているんじゃなかったの?
「色々あるみたいなんだけど、アビニシア侯爵から色々聞いたみたいだって言ったろ?
その前から耳にはしてたみたいだけど、アビニシア領の領主からデビパスやクラスクを見つけたのがアリーだって直接聞いたら、ね。
それにバリーフェの使い道を発見して幻の珍味にしたのがアリーなのは既に知れ渡っているから、それもあって国内外問わずアリーは注目されてるんだ」
むー、あの赤毛のおじさんめ。
未だに僕と息子達をくっつけたがって釣り書を送ってくるし、余計な事しかしないんだから。
釣り書そのものを受け取り拒否したら、新鮮なタコとイカにそれぞれ括りつけて贈ってくるようになって、受け取るだけはしているけど。
バリーフェは····まあ仕方ないか。
ネイルシールもコート剤もブルグル領から爆発的にヒットしているんだ。
今ではネイルシールも含めたハンドケア職人まで養成しようとしてるもの。
それにバリーフェのお肉はグレインビル領の雪山でしか上手く熟成しないみたいだし。
ヒュイルグ国で試してみたけど、あっちではカチコチに凍るだけ。
しかも解凍すると水分が抜けてパサパサなお肉に変身しちゃったんだ。
「それに火山の中のバリーフェの影響もあって、小規模だけど噴火するからね。
昔からあまり発展してない領地だったのは知ってるでしょ?」
「それは、まあ····」
「それに光明を見出したアリーにぜひ1度会ってみたいっていうのもあるんじゃないかな。
できれば西の諸国だけじゃなく、自領のファムント領のバリーフェを使って欲しいっていう目論見もあるんだと思う。
一応この秋にバリーフェを狩って、何匹かグレインビル領で熟成させているはずだよ」
「それで私の可愛い娘を呼びつけようとしてるって事かい、ガウディード?」
おっと、義父様が不機嫌な声を出しちゃった。
従兄様がビクッとしちゃったよ。
そういえば義父様の執務室で熱に喘いでいる時にファントムがどうのこうのって聞いた気がする。
あっちの世界の亡霊って何だろうって一瞬考えたんだよね。
日本ではミュージカルの方が有名かな。
ファントムじゃなくてファムントだったのかな?
「い、いえ、そこは俺の判断です。
ファムント侯爵は温泉街計画がもう少し具体的に進んでから、叔父上とバリーフェの取り引き話をするつもりだったんです。
東の商会長のカイヤ会長の助言で温泉を引き入れた湯船だけはできたらしいので、どうせ行くなら冬に体力が弱った可愛い従妹にカイヤ会長から聞いた湯治で元気になってもらいたいなって。
ほら、この国で温泉が湧くのは西の辺境領くらいしかないでしょう?
湧いててもバリーフェがいつ暴れるかわからないから危なくて入れない区域でしたから。
でもカフェメニューのアドバイスはもちろん欲しいな、可愛いアリー。
お願い」
くっ、それは義母様のお顔!!
僕をバックハグし続ける義父様の腕がピクッてしたから間違いない!!
それはさておき、まあそのお話は一理あるね。
東の商会との交流がこの国でも増えてきたのが先か、カイヤさんが元々あの領の火山帯近くの源泉に目をつけていたのが先かはわからないけど、ここで名前が出てくるなら話に聞いてる東の諸国の温泉の影響は少なからず受けた湯船が出来上がっているはず。
問題だったバリーフェも使い道と需要があるなら、危険やコスト面のデメリットをメリットが上回ると判断したのかな。
グレインビル領で熟成させたバリーフェ肉を逆輸入させて自領の名産として温泉街の目玉商品の1つにしてしまえば····悪くはない商売か。
運送費的には西の諸国からバリーフェを輸入するよりよっぽど安く済むから、その分自領だけなら安く提供できるメリットもあるね。
それにうまく温泉街が機能すれば、ザルハード国からの流民が機能する。
でも流民て····ああ、だから今で、僕にも会いたいのか。
僕お手製の拘りまくった櫛の威力かな?
何回か王都の多国籍カフェにお邪魔して、可愛らしいウェイトレスにウェイターのもふもふを堪能したんだ。
もちろん身バレしないように変装してね。
でもそれなら余計にザルハード国の国力が低下するデメリットも····ああ、だからあの国の第1王子か。
確か何年か前に西の諸国との交易を任されるお話があったっけ。
書面での約束事ではないという事は、任されない可能性もあれば、西の諸国に限定しない可能性もある。
そういえばそろそろ卒業だものね。
第3王子って今どうなってるのかな?
留学中のイグドゥラシャ国の末の王女と噂があった気がするけど、ザルハード国もイグドゥラシャ国も何だかきな臭いんだよね。
誘拐犯達の件もあるし。
ギディアス王太子の妃候補を第1王女から第2王女にすげ替えるつもりで留学させたわけでも無さそうだし、むしろ狙いはルドルフ王子?
王子は卒業した後に学園で臨時講師をしているけど、多分留学中の他国の王族達が関係してるっぽいもの。
イグドゥラシャ国の王太子は体が弱くてふせりがち、第1王女が立太女されるって噂も年々大きくなっている。
「可愛いアリーを従兄の私と一緒に湯治に行く許可を下さい。
お願い、叔父上?」
絶妙に義母様仕様にしたあざと可愛い従兄様が、今度は義父様にお願いした。