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273.赤髪の男〜エヴィンside

「アリー!

久しぶり!

やっと呼んでくれた!

嬉しいなあ!」

「久しぶり、ロギ。

ごめんね、レイヤード兄様が魔具の実験でお城全体に張ってた結界がロギを弾いてるって思ってなかったんだ」


 愛しの化け物がロギと呼ぶあの赤髪の男が両脇に手を入れて華奢な体を持ち上げ、子供にするように楽しそうにくるくる回る。


「ロ、ロギ、そろそろ止めてぇ〜」


 そのまましばらくくるくるしていると、愛しの化け物は目が回ったらしく焦ったように静止を頼む。


 赤髪の男がぴたりと止まって地面に下ろせば、小さな体はぐらぐらと揺れていた。


「俺の可愛い天使!」


 危ないと思う間もなく、長兄がさっと腕に抱く。


「うー、目がぁ····」


 愛しの化け物はそのまま兄の肩口に額を押し当てて回る目の回復を図り始めたようだ。


 今この部屋にはヒュイルグ国王である俺、グレインビルが3人、愛しの化け物の専属侍女、そしてあいつが呼んだ途端に現れた赤髪の男だけだ。


 場所はグレインビルにあてがった客室で、兄のラスティンはグレインビル達が仲良く使用する部屋の奥に位置する寝室で寝かしている。


 指示された通り、夜が明けてすぐにラスティンを抱えて転移した俺はいつの間にか寝室に用意されている背の高い細長い簡易ベッドに言われてた通りに寝かした。


 つうか、あんなのいつの間に用意したんだよ?

俺は知らない。


 すぐにあの次男と専属侍女が寝室に入ってきて、侍女が薬の入っている小瓶を兄に嗅がせると一瞬で眠った。

それを待って侍女と次兄が2人して手際よく服を全て脱がせた。


 心臓を手術するのに何故全て脱がせるのかは謎だ。


 上掛けを掛け、侍女は兄の顔に白い布も被せる。


 ちょっと葬式を手配しそうな、勘違いしそうな光景だったが大人しく見守る。


 すると次兄が別の小瓶を懐から取り出して布の上から口元あたりに軽く引っ掛け、促されるまま眠る兄達3人を置いて隣の部屋に移動してからの、あの赤髪の男の登場だ。


 愛しの化け物に名を呼ばれて10年ぶりに目の前に現れた男は、相変わらず無駄に爽やかで溌剌(はつらつ)としていた。

年は取ったようには全く見えない。


 こいつは何属なんだろうか?

魔人属か人属のような風貌だが、得体が知れなさ過ぎる。


 ちなみに俺は初めて会ったあの時に名前は呼ぶなと男からも愛しの化け物からも釘を刺されている。

男の許可なく呼べば問答無用で灰になるらしい。


 基本的には愛しの化け物も誰かのいる場ではこの男の名をなるべく呼ばないようにしているようだ。


 愛しの化け物も男と同じく義母が付けたらしい大事な名を大嫌いな俺達に呼ばれるのだけは拒否的だった。


『僕の名前をお前が呼ぶな!』


 ムササビなこいつに一喝されたのが思い出されて地味にくる····あ、思い出すとヘコんできた。


「それで、旅人さんてのはどこにいるんだ?」


 気を取り直そうと話題を変える。


「まだこれからだよ。

ねー」

「ねー」


 いつぞや血を採られた時の次兄とのやり取りを思い出すが、今日の相手は赤髪の男だった。


 長兄に抱っこされてちょうど目線の高さが同じくらいになった男とニコニコと上機嫌に首を傾げてタイミング良く、ねー、をやっている。


 どうした、流行りか?

羨ましいぞ。


「エセ野郎と目を合わせちゃ駄目だぞ、俺の可愛い天使」

「えー、何でだよー」

「天使が穢れるからに決まっているだろう、エセ野郎」


 赤髪の男と長兄が一緒にいる所を初めて見たが、仲は全く良く無さそうだ。


 次兄がこの男の事を話していた時にも感じていたが、やはり愛しの化け物を巡っての三角関係、いや、この場合は四角関係か?が勃発するようだ。


「ふふふ、相変わらず仲いいね」

「「「どこが?!」」」


 おっと、野郎3人の声がそろっちまった。

化け物の目は大丈夫か?


「それよりロギ、そろそろお願いしていい?

もうそろそろ遅効性で強力な方の麻酔が効いてくるはずなんだ」

「おいらはいつでも良いよ」


 男が爽やかに了承すると、再び男の腕に移った。


 それにしても長兄よ、その顔はやめろ。

せめて殺人犯から窃盗犯くらいの顔に戻しておけ。


「それじゃ、ちょっと旅人さんと交代してくる」

「本当に大丈夫なんだな?」


 事前に説明は受けているが、跳ぶ場所を知らされていないだけに心配にもなる。


 どうやら旅人さんとやらはかなり遠くにいて、普段なら絶対に会うはずはないらしい。

それを特殊な魔具とあの赤髪の男の魔力を使う事で互いの居場所を交換して召喚すると聞いている。


「その為に彼を呼んだんだよ。

魔力の親和性の問題で、あの子と相性良いのは彼だからね」

「そうそ。

おいらとあの子は相性バッチリなんだよ。

おいらとアリーの仲みたいで嬉しいな。

そもそもおいらが愛し子を危険に曝すわけないじゃん。

お前はあの双子の死にかけの心配でもしてればいいんだよ」


 うん、国王のはずの俺への容赦の無さな。

まあこの男の不遜な言動は今更だ。


 男はそう言うと、いつもは専属侍女が使用している部屋に併設する使用人部屋に愛しの化け物を連れて入って行った。


「くっ、俺の可愛い天使が連れこまれるとは」


 兄よ、心底悔しそうに腹の底から声を出すの止めろ。

辺境領主時代に無駄に攻め入ろうとする俺達をことごとく退けたグレインビルの次期当主だよな?

残念が過ぎんじゃねえか?


 と、そう思った時だ。


 ズン····。


「?!」


 ほんの一瞬、1秒にも満たない時間だった。


 濃縮され、膝をつきたくなるような圧倒的に存在感のある魔力が、使用人部屋を中心に狭い範囲で圧となって襲った。

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