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250.専属侍女の条件〜レイヤードside

本日2話更新します。

多分夕方くらいになるかと。

「ん····っく、グスッ、ケホッ」


 泣くだけ泣いて、まだ時折嗚咽や咳が出ているけれど深く眠り始めたみたいだ。

首に回してる腕の力が抜けた。


 眠るというよりは気絶に近いんだろうね。

出血したせいか顔色も青白かった。

時折鼻をすすっているから、落ち着くまでは横にしない方がいいかな。


 少し体を離してまずはこめかみの傷を確認する。

白銀の髪には血がこびりついているけどちゃんと塞がっていて、軽く痕が残っている程度だ。


 向こうからは見えないようにして、そっと剥き出しの肩も確認した。

こちらの傷はかろうじて塞がっているものの、触れればまた血を流してしまいそうだ。

深く抉っている。


 他にも皮膚に青い鬱血の痕も見られたから、木にぶつかった時に相当強く打ちつけたのかな。


 全身に治癒魔法をかける。

もちろん今の僕が使える最上位の魔法だ。

腕の深い傷はほんの少しだけ痕が残ってるけど、時間と共に消えそうだね。


 そして次に洗浄の魔法をかければこびりついた血は綺麗に無くなった。


 心配そうにこちらを見ていたマーサに気づき、話しかける。


「妹はこれから一気に体調を崩す。

身の回りの事はこの専属侍女のニーアにさせて。

妹が1番信頼しているし、護衛としても申し分ないから」

「畏まりました」


 本来の主である国王もマーサに無言で頷いた。


「いい加減座ったら?」


 いつまでも立ち尽くしていてウザったいな。

苛ついて3人の足元をバチンと雷撃する。

不敬罪とか言うならこいつらまとめて殺そう。


「アリー嬢は?!」


 だけどとにかくアリーへの心配が勝って顔を一目見ようとするルドはともかく、この王と側近も全く気にしていないみたいだ。


 チッ。

殺す口実が無くなったか。


「物騒な事考えてんだろうが、お前の考えに乗ってやるつもりはねえ。

それよりグレインビル嬢は?」

「はあ。

ニーア、準備しておいて」


 ため息を吐いて指示すると、ニーアとマーサは頷いて奥へ向かう。


 アリーは手足が少し冷たいのに、体はかなり熱を帯びている。

でもまだ汗が全然出ていない。


 これはしばらく生死を彷徨うかもしれないな。

せっかく増えた体重も、間違いなくこれから減ってしまうね。


 もっと太らせておけば良かったと後悔してしまう。


「早く座りなよ」


 今度は顎で座れと指図すれば、やっと3人は従った。


 狼は逆に立ち上がり、僕の対面の1人掛けのソファに腰かけたルドの後ろに立つ。


 国王は狼のいたソファのこちら寄りの端に座り、側近はその後ろに立った。


 もっとあっちに寄って座って欲しかったな。

心配そうに、しきりにアリーの様子をのぞきこもうとしてきてうざい。

アリーはそっちに背中を向けているから、当然見えないだろうけど。


「あれが今の専属侍女なのだな。

あの時の侍女もそうだったが、それ以上に強くて驚いた」

「アリーは自爆とはいえ君達が殺したと言っても過言ではない専属侍女が亡くなってから、もう何年も専属侍女を置かなかった。

辺境領って場所柄なのか、魔力0の人間を実験したい奴が多かったのか、狙われる頻度は高くてね。

無理矢理置いた事もあったけど、そういう時は生きる事を全て放棄して拒絶した」

「それは····どういう····」


 ルドが眉を顰める。


「食事も睡眠も取らなくなる。

あの頃は幼児だったし、元来父上にも母上にもアリーは弱いんだ。

嫌だと言っても無理矢理付けられれば表立って拒否はしない。

そういうのがわかっていて、両親は専属侍女を付けようとしたけどまともに反抗なんてした事ないのに、専属侍女だけは自分が倒れても、死にそうになっても大人が折れて諦めるまで何度でも抵抗したんだ。

ニーアを専属侍女にしたのはニーアの執念と竜人の本能的な習性を前にアリーが諦めた。

だけど真名でたった1つだけ誓約させた事がある」


 そこでマーサは盆の上に吸い飲み、ニーアは新しい毛布を運んできて、ニーアが毛布をアリーごと僕に引っかける。

マーサから吸い飲みを受け取ると、慣れた手つきで少し血色の悪くなっている小さな口元に運んで何口か飲ませながら教えた。


「主の自分ではなく、己の命を優先させる事です」

「····そうか。

だからお前は強いのか」


 国王がなるほどと頷いた。

彼は昨日ニーアの火の魔法を纏った兄馬の攻撃を食らってたからね。

治癒魔法も彼の目の前で使っただろうから実力はわかったんじゃないかな。


「はい。

己の命を優先せずとも難を跳ね返せば良いので」


 アリーは専属侍女としてニーアを受け入れる時、これまでに見せた事のないような傷ついた目をしながらニーアに約束させたんだ。


「·············あの死んだ侍女の遺体をグレインビル嬢は見たのか?

まだ3つか4つぐらいのガキだったが、未だにそれを鮮明に覚えているのか?」


 長い沈黙の後、あの時の状況を初めて尋ねてきた。

今更だ。


「僕が駆けつけた時、アリーはココの頭部をシーツで包んで座りこんでいた。

小さな頭や肩に雪を積もらせてね」

「な、に····それじゃあ····」


 ココが道連れに自爆したくらいの話は聞いてたからね。

ルドが言葉を詰まらせる。


「それからアリーは少なくともうちに来た赤ん坊の頃からある程度の記憶がある。

この子の記憶に年齢は関係ない。

それにアリーは1度見た事は映像としてそのまま覚えている」


 ルドの後ろに立つ狼も含めて4人共が絶句する。


 自爆の時点でココの遺体の損傷がどれだけ激しかったか予想できたよね。


 アリーがココを想って君達を許さないと決めたように、僕は(アリー)を想って君達を許さない。

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