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18.声と熱

「少し熱があるな。

回復魔法をかけたけど、ちゃんと休むんだよ」


 義父様の撫でる手はいつも優しくてうっとりしちゃうね。


 僕が眠っている間に今日の買い物は転移魔法で連れ帰ってくれたバルトス義兄様によって食物庫に保管されていた。

義兄様は僕が起きる少し前に王宮の寮に戻ったらしい。


 串焼きと平らなカステラを夕御飯の一品にしてもらうと予想通り義父様はワインの封をあけていた。

美味しくおつまみになってくれて満足だ。


(バルトス義兄様にも食べて僕の懐かしの味を知って欲しかったな)


 食べ終わって義父様と今日の出来事を話していたら、義父様が不意に僕を横抱きにして自室のベッドに運んだ。

倦怠感があったのがバレてしまったようだ。

僕の今の体は前世と違って弱い上に治癒や回復の魔法が効きにくいから面倒だ。

清浄魔法で僕の体を一瞬で綺麗にしてクローゼットの寝間着を手渡してくれる。


「明日また話そう。

おやすみ、私のアリー」

「おやすみなさい、父様」


 お互い頬にキスをして義父様が出ていく。

僕の義父様は王子様より格好いいなぁとほれぼれする。

すでに部屋着で着替えに使用人は必要ない。

1人で着替えてそのまま眠りについた。



(····だ········とめ······や········)


 声が聞こえた。

とても小さくて、弱々しい。

どこかで聞いたことのある、幼い声だ。

どこでだろう?

何て言ってるの?

もしかして泣いてるの?

目を開けているはずだけど、真っ暗で見えない。


(····だれ······めて·····やめ····て )


 先ほどよりは少し大きくなった声。

必死さや恐怖も混じってる?


だめだ、わからない。

どこにいるの?

誰?



 ハッと目が覚めた。

視界は暗いが夢と違って月明かりでぼんやりと部屋は照らされている。

汗をかいているからか、服が体に張り付いて気持ち悪い。

熱いし、頭と喉が少し痛む。

けれど夢から現実に戻ったのだとほうっと息を吐いた。


「悪い夢を見たのかな?」


 不意に部屋のドアが開く。

義父様が静かに入ってきて、頬に触れる。


「熱が上がってるね。

頭痛や吐き気はあるかい?」

「吐き気はないけど、頭と喉が少し痛い」


 それを聞いて使用人を呼ぶ。

僕の不安定な体調に慣れたベテラン侍女のニーアがすぐにタオルと水差しと薬を持ってくる。


 義父様に体を起こされた僕は薬を飲んで、ベッドの縁に腰かけた義父様にもたれかかる。

汗ばんだ顔や首筋をそっと拭ってくれるところにささやかな愛情を感じる。


「寒くはないか?

眠れそう?」

「ん····寒くはないけど、少しだけ父様とこうしてたい」


 義父様に肩を抱かれながらそのままもたれかかり続ける。


「可愛いアリー、怖い夢を見たのかな?」

「怖くはないけど····誰かが僕に何か訴えてる夢。

多分、助けを求めてる?」


 真っ暗なあの夢を反芻する。

どこであの声を聞いたんだっけ。

頭がぼうっとして、うまく思い出せない。


「そうか。

久しぶりにこのまま一緒に眠ろうか?」

「····そうしたいけど、小さい子供みたいで恥ずかしいよ」

「ふふ、お前はまだ9才の小さな子供だよ?」

「····そっか。

じゃあ、一緒に寝てもらってもいい?」

「もちろんだよ、私とミレーネの可愛い娘」


 ニーアを下がらせてそのまま義父様と横になる。

背が高い義父様に僕のベッドはちょっと窮屈だったかな。

前の人生や産まれてすぐの頃の自分とは違い、確かに愛されていると感じられる父親に甘えてすり寄る。

大きな手でぽんぽんと背中を叩いてくれる規則的なリズムに、いつしか心地よく眠っていた。


 熱はいつも通りに高熱が1週間、微熱に変わって数週間してやっと治まった。

僕ってやっぱり深窓の令嬢だよね。

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